“スマートビル”の先に見据える持続可能な街づくり 日立×東京建物の協創戦略Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN(4/4 ページ)

» 2022年06月24日 15時18分 公開
[加藤泰朗BUILT]
前のページへ 1|2|3|4       

ファイナンスとの連動が、持続的な街づくりを可能に

 さまざまなアプローチから、魅力的なまちづくりを支援する東京建物――。こうした活動を持続的に続けていくためには、「ファイナンスとの連動が大事」と冨谷氏は語る。

 東京建物は2020年7月、環境性能(グリーン性能)を備えるビルに、CityLab TOKYO、TOKYO FOOD LAB、xBridge-Tokyoのような公共性の高い取り組みを合わせた「サステナビリティボンド」を発行。国内不動産セクターとしては初の試みで、当時の最大発行額も達成し、多くの投資家も関心を示した。

※サステナビリティボンド:「調達資金全てがグリーンプロジェクトやソーシャルプロジェクトの初期投資又はリファイナンスのみに充当され、かつ、『グリーンボンド原則』と『ソーシャルボンド原則』いずれか一方又は両方の4つの核となる要素に適合する債券」 出典:環境省Webサイト

ファイナンスと連動した東京建物の街づくり構想

 この結果を冨谷氏は、「ビル単体ではなく、街づくり全体に対して資金が回っていく仕組みとして実を結んだ」と自己評価する。東京建物の取り組みは、東京都にも認められ、「令和2年度 東京都におけるイノベーション・エコシステム形成促進支援事業」として認定を受けている。「今後も引き続き、活動を発展させていきたい」と抱負を語り、冨谷氏は締め括った。

魅力的な街づくりをさらに推し進める東京建物

 両氏の講演を終え、本セッションはディスカッションへと移った。渡辺氏は口火に、「脱炭素という社会課題解決についてどう考えているか」と冨谷氏に訊ねた。

 質問を受けた冨谷は、2021年8月の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)」の報告や「アースオーバーシュートデー(その年に使用可能とされる全ての地球資源を使い果たす日)」を採り上げ、引き続き注視すべきテーマとしながら、「サステナビリティボンドへの投資実績は伸びている。国内企業によるサステナビリティの発行実績は、2020年に6000億円だったが2021年は既に7000億円を超え、関心の高さがうかがえる」と、明るい兆しがあることにも触れた。

サステナビリティボンド投資の実績推移

 さらに、2021年6月に国が公表した「地域脱炭素ロードマップ」に、人材、技術、情報、資金を積極的に支援する脱炭素先行地域の対象地で、大都市の中心市街地が含まれることに注目し、「八日京エリアを脱炭素先行地域の都市モデルにしていきたい」との意欲をのぞかせた。

 他にも、慶應義塾大学との共同研究、太陽光パネルを設置して再生可能エネルギーの創出と活用を実践する物流施設「T-LOGI(ティーロジ)」、オフィスから出た廃プラスチックのマテリアルリサイクル活動「Circular Economy(サーキュラーエコノミー)」など、脱炭素型の持続可能な街づくりにつながる東京建物の多様な施策を披露。「これからの街づくりで一番大切なのは、魅力的であり続けられるよう運営すること。いろいろなステークホルダーと協創し、トライアルを重ね、常に街をアップデートすることが重要だ」(冨谷氏)。

 冨谷氏の話に渡辺氏は、「竣工がゴールではなくて、人々が10年、20年と土地に寄り添い、育て、そしてその時々の社会課題を解決できるフレームを作ることで、持続可能な街づくりの夢が描ける」と賛意を示し、日立も都市計画のバリューチェーンのなかで貢献していきたいとの意気込みを語った。

協創で、街づくりのエコシステム形成を掲げる日立

 続いて、冨谷氏は渡辺氏に、BuilPassの開発経緯と街づくりのエコシステムに対する日立の姿勢に関して2つの質問を投げかけた。

 BuilPassについては、渡辺氏いわく、BuilPass開発時の課題は、「ビルで働く人が満足するアプリケーションを提供すること」。日立独自でのアプリ開発は難しいと判断し、国内外で優れたユーザーエクスペリエンスサービスを提供する会社を調査した。その過程で、アイルランドのベンチャー企業SpaceOSと出会い、2019年度にロンドンで打ち合わせを始め、リモートで技術検証を重ね、2021年度からサービス提供を開始したと説明した。

 街づくりエコシステムは、日立として積極的に関わっていくとしたうえで、「日立だけではエコシステムを構築できない。用地取得や解体、建設、運営、売却など、ノウハウを有する専門家が連携することで、新しいアイデアを創出できる」と仲間づくりの重要性を強調した。冨谷氏は「日立に蓄積されたノウハウや海外ベンチャーとのコラボレーションなどに期待している。今後もぜひ協創していきたい」と応え、ディスカッションは終了した。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.