“匠の技×デジタル技術”で傑作建築を移築、前田建設のロボットで破風板復原：デジタルファブリケーション（2/2 ページ）

[BUILT]

匠の技とデジタル技術が共演した移築工事

　移築工事では、移築を前提としていたため、解体前に内部の要所を3Dスキャンと360度カメラで記録し、慎重に解体を進めた。木材部は90年という月日を経て劣化していたが、欠損部や腐朽した箇所は職人が伝統技法により繕いを行ったという。

旧渡辺甚吉邸（食堂）。天井のレリーフは、構造をスキャニングして分析することで、4枚で1ユニットと判明し、破損部分を復原　撮影：傍島利浩　出典：インフロニア・ホールディングスプレスリリース

　さらに、風雨にさらされて腐朽が酷く繕いで補えない破風板の右側は、3Dスキャナーでデータ化して、前田建設工業のロボットアーム型木材加工機「WOODSTAR（ウッドスター）」で、無垢のタモ材を切削加工して“復原”した。なお、左側は職人が手作業で、腐朽部分を削った箇所に寸分違わぬ部材をはめ込む埋木の技法で繕い、両側でデジタルと伝統技能の融合を見ることができる。

ロボットアーム型木材加工機「WOODSTAR」を用いた正面の妻壁屋根にある破風板の復原　出典：インフロニア・ホールディングスWebサイト「旧渡辺甚吉邸移築活用プロジェクト 工事内容」

　今回の移築プロジェクトでは、スロープを介して甚吉邸とつながる多目的スペース「W-ANNEX」を新設。設計では、前田建設工業の設計部に加え、ツバメアーキテクツ一級建築士事務所と、ランドスケープデザインでプレイスメディアを招聘した。今後は、旧渡辺甚吉邸とともに、さまざまな文化芸術関係者や地域の方々などとの多様なコミュニケーションの場として積極的に活用していく。

旧渡辺甚吉邸（外観）　撮影：傍島利浩　出典：インフロニア・ホールディングスプレスリリース

　今回、彫刻の再生で活用したWOODSTARは、千葉大学 平沢研究室と共同で開発し、2021年10月に全国のプレカット工場を対象に販売を開始している。汎用のロボットアーム先端に自動ツール交換機を装着し、2機ペアを標準として、加工材を垂直に設置して加工し、上下方向に3メートル、厚さ1.25メートルの断面寸法で、大型部材を加工できる。もとになるデータは、3Dスキャンデータ以外にも、BIMデータにも対応する。

ロボットアーム型加工機「WOODSTAR」　出典：インフロニア・ホールディングスプレスリリース