本連載では、タナベ経営の建設専門コンサルタントが各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第6回は、建設業のM&Aで多くみられる「グループ経営」を成功させて企業成長へ導くために、「ホールディングカンパニー」の果たすべき機能と経営者の資質について説く。
経済産業省や大手M&A仲介会社の発表資料を見ると、国内におけるM&Aの件数は増加傾向にあり、建設業でも同様に増加している。経営者の高齢化や後継者不足を背景とした「事業承継型M&A」が増加要因の1つだが、成長戦略の有効な手段としてのM&Aも増えている。その類型をまとめると、図1のようになる。
建設業は、「地域密着型」の経営を志向する企業が多く、また、住宅業は別として、「一品一様の建設目的物をつくる」という特殊性から、規模の拡大によるスケールメリットの享受、生産段階の効率化や標準化が難しい業態といえよう。
しかし、各地域の建設需要が長期的に減少することが見込まれる時代においては、「できることの幅」と「できるエリア」を広げる挑戦=“価値提供領域”を広げる挑戦なくして、今以上の成長は望めない。建設業におけるM&A増加の要因は、このような背景もある。
★連載バックナンバー:
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。
建設会社のM&Aは、吸収合併ではなく、グループ会社として傘下に収めるケースが多い。業種や工種が異なり、企業規模も社員の賃金水準にも格差がある場合は、その方が妥当性はあるだろう。必然的に、複数の会社で構成される「グループ経営」が展開されることになるが、では、グループ経営を成功させるためのポイントは何か、以下で解説する。
■ホールディングカンパニーが担う5つの役割・機能
グループ経営を成功させる重要な役割を担うのが、「ホールディングカンパニー」だ。タナベ経営では、ホールディングカンパニーが担うべき役割・機能を、以下の5つと提唱している(図2)。
1.グループ理念の浸透機能〜グループ理念の下にわれわれはひとつ〜
会社は別でも、同じ経営思想の下に集まった企業群であるという前提が無ければ、グループを形成する意味はない。同じグループに属することによる相乗効果や経営の効率化といった「利」のみを考えるなら、業務提携だけで事足りる。人事交流やグループ全体の経営レベルの進化を考えるならば、グループ理念の浸透は欠かせない。その役割を果たすのが、ホールディングカンパニーである。
2.グループ経営企画機能〜グループ全体と各社の成長をデザインする〜
中小・中堅企業の場合は、自社の事業を成長させ、経営を進化させる戦略を策定する「経営企画部門」を持っているケースは少なく、経営者自身がその役割を担っている。「企業は経営者の器以上に大きくならない」と言われる所以(ゆえん)だ。しかし、一企業の社長とグループ全体のトップでは、要求される経営能力が異なる。だから、グループを成長させる経営企画機能を、ホールディングカンパニーという「組織」で担う。事業各社の経営者の力量に、成長を依存しきらないことが求められる。
3.グループガバナンス機能〜手は離しても目は離さない〜
ホールディングカンパニーの傘下にある事業会社に、一定レベルの権限を委譲するのは当然としても、放任経営になってはいけない。一企業の問題が、グループ全体の企業価値に影響することもある。以後のM&Aに悪影響を及ぼすことだってあるかもしれない。統治機能を仕組みとして整備することに加え、事業会社の経営者教育も重要だ。
4.グループマネジメント機能〜経営マネジメントレベルを進化させる〜
グループ会社の数が多いほど、経営マネジメントのレベル格差が大きくなる。全てを同じレベルに引き上げることは難しくとも、マネジメントレベルの未熟な企業には仕組み整備の指導・支援を行い、全体として経営レベルを高めていくことが重要であり、新たに傘下に入った企業にとって意義深いこととなる。
5.シェアードサービスセンター機能〜間接部門の統合による効率化と、経営進化の推進〜
業種・業態の違いや規模の大小を問わず、DXの推進は全ての企業に共通する経営テーマであり、その中心的役割を担うのが情報システム部門である。しかし中小企業では、情報システムの専任担当者を社内に抱えることは現実的ではなく、その結果、経営マネジメントレベルが進化しないというケースがよくある。ホールディングカンパニーがその役割を担えれば、グループ内連携や協業も進みやすくなる。
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