「現在のBIM/CIMの普及状況」では、杉浦氏は国土交通省のBIM推進委員会で発表された2020年度までのBIM/CIM活用業務・工事の推移を示すデータを示した。公共工事(インフラ系)に関するデータだが、示された数字によれば、2020年度のBIM/CIMを採用した「業務」は389件(「工事」も含めた総数は515件)に上る。2019年度の「工事」も含めた総数が361件のため、一見順調に増加傾向にあるようにも思えるが、その母数となる年間の業務発注数は約1万件にも達している。つまり、2020年度のBIM/CIMの活用業務は1万件のうちのわずか389件で、約3.89%にすぎない。
工事分野でも同様で、2020年度のBIM/CIM活用公共工事の件数は母数8000件の公共工事のうち126件、約1.57%にとどまる。こうした数値からは、BIM/CIM普及の実態は「まだまだ頑張ってトライ中」程度の段階にあることが分かる。
だが、その一方、国土交通省は、2023(令和5)年度には全公共工事でBIM/CIMを原則適用すると掲げ、「待ったなし」の状況が目の前に迫っている。具体的な国交省の考えとして杉浦氏は、「令和5年度までのBIM/CIM活用業務の進め方(案)」を提示した。
資料では、BIM/CIM業務の進め方として、3次元モデル作成要領に基づき、土木工事と鋼橋上部を対象に、大規模構造物とそれ以外に分けて、詳細設計から工事まででR2(令和2)からR5(令和5年度)までの年度で段階を設定。それぞれでBIM/CIMの適用段階を踏み、R3では大規模構造物の詳細設計で原則適用し、最終のR5では全ての詳細設計と工事で原則適用を求めている。
国交省側の支援施策としては、3次元モデル作成要領の策定・改定やBIM/CIM活用ガイドラインの改定、人材育成センターでの研修開催などを行っていく。「多くの関係者にこれを理解してもらいBIM/CIMを使えるようになって欲しいという意も込めて、スケジュールが立てられている」と杉浦氏は話す。
業務も工事も、まだ数%しかBIM/CIMが実施されてない中で、全体への適用拡大に向けたロードマップが設定されているのが現在のBIM/CIMを取り巻く現況だ。
インフラ系では、ややもすれば、「実際に基準が決まらないと何もできない」と思い込んでいる人が少なくないが、あらかじめ理解しておかなければ、いざ基準が定まっても対応は難しいだろう。個々の状況に適した変化球などは、誰でもすぐには投げられないのである。
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