【第5回】建設現場での残業規制への対処法、現場代理人の働き方を変えるには建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(5)(1/2 ページ)

本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第5回は、2024年に建設業でも適用される時間外労働の規制に対して、いかに対処していくべきか、現場とバックオフィスが協力し、会社一体で「働き方改革」「生産性改革」に取り組んだ事例から、解決策を提言する。

» 2022年02月23日 10時00分 公開

1.建設現場の働き方改革は待ったなし

 2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法」。建設業でも5年間の猶予を経て、2024年4月からは時間外労働の上限が罰則付きで規定される。いままで事実上“青天井”だった建設業の時間外労働が、初めて法的に規制されることになる。そのため、先を見据えた働き方改革への対応が、現在の建設業界では緊喫の課題となっている。

  • <働き方改革関連法、主なポイント>
    • 時間外労働規制の見直し
      1. 時間外労働は原則月45時間かつ年360時間以内
      2. 特別な事情がある場合でも年720時間以内(=月平均60時間以内)
      3. 年720時間以内を前提に、複数月の平均が月80時間(休日労働を含む)以内、単月なら月100時間未満
    • 年次有給休暇の確実な取得
      1. 年間5日取得

※10日以上有給休暇が付与されている人には、時期を指定して実施が必要

連載バックナンバー:

建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」

本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。

 しかしながら、国内の建設投資額が増加するなかで、工事現場の人材不足は解消されず、多くの建設関連企業は以下のような共通の悩みを抱えている。

  1. まず何から始めないといけないか
  2. どのように生産性を高めていくか
  3. どのように現場を変えていくか
  4. どのように離職を防ぐか
  5. どのように人を育てるか

 とくに、現場を預かる責任者(現場代理人)に掛かる負担は増しており、まさに「働き方改革待ったなし」の状況である。筆者はこれまでに、上記の悩みを抱えている建設会社で、「建設現場の働き方改革プロジェクト」を推進してきた。今回は、現場とバックオフィスが協力し、会社一体となって成し遂げていかなければならない「働き方改革」「生産性改革」の成功事例を紹介する。

2.現場業務を「数値化」「見える化」

 筆者は、具体的には以下の課題に直面している建設会社とともに、業務改善に向けて取り組んできた。

  • <主な課題>
  1. 生産性の向上:案件の引き合いはあるものの人手不足で「案件の取り逃がし」がある。限られた人材でいかに生産性を高めていくかが課題である。
  2. 案件の大型化:案件の規模が大型化しており、以前までの「現場代理人がほとんど全ての業務を担う」スタイルが通用しなくなってきた。
  3. 人材難:慢性的な人不足に加え、採用してもすぐに退社してしまうことが続いている。

 課題に対して、第1段階では、現場実態調査で現場の働き方の問題点や課題整理、改善の方向性を策定した。主要項目は以下の通りである。

  • <改善策>
  1. 業務棚卸:現場代理人の業務を棚卸し、現場代理人でないとできない業務(コア業務)、現場代理人以外でも対応可能の業務(一般業務)を整理した。
  2. 現場実態調査:現場では、何の業務にどれだけの時間を費やしているかを実態調査した。専用スマートフォンを導入し、2週間に渡り、15分おきに行っている業務内容を統計調査した。
  3. 現場ヒアリング:現場を訪問し、インタビューを実施。現場の「生の声」から問題点を抽出した。
  4. 改善テーマの設定:分析結果を踏まえ、「急ぎ改善すべき業務」「改善効果の高い業務」を選定し、優先度の高い改善テーマを設定した。

 第2段階では、働き方改革プロジェクトを立ち上げ、業務効率化に向けた具体策や役割分担、アクションプランを策定して推進した。その主な流れは、以下の通り。

  1. 現状の業務フローの整理とあるべき業務フロー(新業務フロー)の設定
  2. 新業務フローの実行に向けた、行動計画の策定
  3. 新業務フローのテスト導入
  4. 新業務フローのマニュアルの策定
  5. 新業務フローの全社展開
  6. 成果検証(全社展開後に、しばらくして成果検証を実施)

 

ある中堅建設業の現場監督を対象に実施した「現場実態調査」の結果
ある建設会社の「じょぶたん」作業項目ボタン。20〜30分毎に行っている作業項目のボタンを押し、業務時間を計測する 出典:NX総合研究所「じょぶたん」
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