本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第8回となる今回は、特殊な木造建築物の防耐火制限について採り上げる。
前回の連載は、住宅や事務所などの木造建築物では、耐火上の観点からどのような制限があり、どのような点に留意すれば建築が可能になるのかを説明しました。今回は、それら以外の用途で建築基準法によって定められる「特殊建築物」について考えていきます。
特殊建築物は、「不特定多数の人が利用する用途」「就寝室と危険物取り扱いの有無」「大人数が一度に集まるか」といった条件に従って、いくつかのグループに分けられています(表1)。
さらに、防耐火性能に関しては、内部からの火災と外部からの延焼防止という2つのポイントを踏まえた建物断面の構成が規定されています。そして、主要構造部の柱や梁(はり)など、耐火被覆として用いられているプラスターボードの厚さによって耐火時間が決まるというのが現在の建築基準法で、12.5ミリのプラスターボード1枚当たりの耐火時間は15分という換算です。
例えば、千葉学建築計画事務所が設計し、2020年に東京都港区で竣工した共同住宅「TAKANAWASITE」は、石膏(せっこう)ボードの二重張りにより、1時間耐火性能を有する木造耐火建築物として設計されました。
また、木材を表しにして用いたい場合に耐火性能を確保する手法として、燃えしろ設計が有効ということは、これまでにも述べてきた通りです。燃えしろ設計は、集成材と製材によって耐火時間が異なりますが、火炎で生じる炭化層が木材の中心部まで燃えないという性質を利用したもので、一種の木材そのものが被覆になるという手法。
燃えしろ設計の場合は準耐火建築物までの耐火性能となり、準耐火構造で木材を表(あらわ)しにして設計することが可能です。また、燃えしろ設計とは異なる手法では、耐火性能を有するLVLなどを利用した合成部材を用いることで、木を表しで使用するという方法もあります。
一例を挙げると、西澤高男+山代悟+ビルディングランドスケープ設計による「やはた幼稚園(東京都中野区)」の保育ルームでは、厚み60ミリの難燃処理を行ったLVLを耐火被覆に活用し、荷重支持部材として160ミリの角材を使うことで、1時間耐火柱部材を実現しました。
もちろん、特殊建築物における耐火上の要件は、都市計画法上、防火地域/準防火地域で必要とされるルール、先ほど触れた特殊建築物の用途や規模に由来する規定、建物高さによる規制があり、そのなかで最も厳しい規定が適用されます。
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