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» 2022年01月04日 06時00分 公開

脱炭素社会実現のカギ「リチウムイオン電池」と「水素」、その動的解析と今後の展開脱炭素(1/3 ページ)

国際気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2018年の「IPCC1.5℃特別報告書」で「産業革命以前から続く世界の気温上昇を1.5度以内に抑えるためには、二酸化炭素(CO2)の排出量を2050年前後には正味ゼロ(カーボンニュートラル)に達する必要がある」と示唆した。この特別報告書を受け、日本を含め世界各国はカーボンニュートラルへの目標を表明している。こうした脱炭素社会へのカギを握る1つに、エネルギーを蓄える「蓄電池(2次電池)」が挙げられる。

[中村のぶ子,BUILT]

 現在、最も普及している蓄電池は、スマートフォンやPCに使用されているリチウムイオン電池だろう。そのリチウムイオン電池の研究者である立命館大学 生命科学部 教授の折笠有基氏による蓄電池と水素エネルギーに関するセミナーが2021年6月に開催された。本稿では、ウェビナーの模様をレポートする。

CO2削減の手段としてのリチウムイオン電池と水素エネルギー

 2021年11月気候変動対策の国連会議(COP26)で日本政府は「2030年に46%削減」という独自目標を宣言した。

 しかし、折笠氏によると、「CO2排出削減の手段として非化石電源、水素、合成燃料、バイオマスなどが考えられるが、今の技術では達成できない」という。例えば、太陽光発電や風力発電などのCO2を排出しない再生可能エネルギーは、季節や天候によって発電量が変動するため、全ての需要電力を賄(まかな)うことは不可能である。特に夜間の電力需要は、今後、電気自動車(EV)の普及に伴って、さらに増えることが予想される。

 そこで注目されるのが「余剰電力を貯(た)めておけるリチウムイオン電池とCO2を排出しない水素エネルギーの技術革新」である。実際、2021年に経済産業省が提出した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン戦略」でも、「自動車・蓄電池産業」および「水素・燃料アンモニア産業」の分野で、新しい技術開発が期待されている。

 また、リチウムイオン電池が2019年のノーベル化学賞に輝いたのも、「(太陽光や風力発電の電力を貯めて)脱炭素社会を促進する」という期待が評価されたのではと、折笠氏は指摘した。

太陽光発電、風力発電の出力がとれているときの出力変動 出典:「原子力・エネルギー」図画集 2007版p6/電気事業連合会/2007年2月
最小需要日(5月の晴天日など)の電力需要イメージ 出典:日本のエネルギー2020年度版「エネルギーの今を知る10の質問」/経済産業省資源エネルギー庁Webサイト/2020

電動化だけでは脱炭素にならない!EVに使用する蓄電池の課題

 一方で折笠氏は、「EVに搭載する蓄電池には課題がある」と次のように解説した。

 CO2を排出しないイメージの強いEVだが、実は車を製造する際のCO2排出量は、従来のガソリン車よりも高くなってしまうのだ。しかし車を走らせ、走行距離がある地点に到達すると、ガソリン車よりも最終的にはCO2排出量は低くなる。「(環境条件によって異なるが)6〜10万キロ以上走ってはじめて、ガソリン車とEVは同程度のCO2排出量となる」(折笠氏)。つまり、EVは長い距離を長時間走ることで、ガソリン車よりもCO2排出量を削減できることになる。

 しかし、ガソリン車が一度の満タン給油で、平均500キロの航続走行が可能なのに対し、EVに搭載されている既存のリチウムイオン電池は最高で200キロ、改良型でも最高300キロというのが現状である。そのため、EV車開発は電池が長時間、使用可能であるかどうかにかかっている。

 2030年以降にガソリン・ディーゼル車の販売停止を決定した国も既に出始め、今後もEVの普及に従って、蓄電池の役割は重要になることは明らかである。「世界の自動車台数は14億台にも上る※1 下記の補足資料を編集部で追加。そのため、ガソリン車並みの航続距離で、安全かつ寿命が長い新しい蓄電池の開発は、これから大きなマーケットに成長するだろう」(折笠氏)。

各国のガソリン車(GE)、ディーゼル車(DE)、電気自動車(BEV)の走行距離とCO2排出量。(a)ヨーロッパ、(b)日本、(c)アメリカ、(d)中国、(e)オーストラリア 出典:Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion Engine Vehicle and Battery Electric Vehicle Using LCA/by Ryuji Kawamoto,Hideo Mochizuki,Yoshihisa Moriguchi,Takahiro Nakano,Masayuki Motohashi,Yuji Sakai,Atsushi Inaba/Sustanability2019,11(9)2690
※1 補足資料:世界各国の四輪車保有台数2018 出典:「クルマと世界」/日本自動車工業会Webサイト
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