田中氏は、大型のプリンティング技術が日本は世界に比べて出遅れているとし、日本のコンクリートメーカー、ゼネコン、ハウスメーカーなどは、海外の動向をキャッチアップして追い抜く策を考えなければならないと提言した。
具体的な方策として、田中氏が2019年から着手する世界最大規模のプリンタ構想も紹介。プリンタは、素材を吐出するノズルヘッドを四方に配置した支柱に取り付けたワイヤで吊(つ)り下げて、4点で自在に動かせる。縦横35メートル、高さ30メートルのサイズで、サッカーの試合を空中から撮影する中継カメラからヒントを得たのだという。
ただ、このサイズを大学内に設置するスペースがなかったため、ワイヤを巻き取り、コンパクトな場所でも設置できるようにした。
印刷に用いる素材(マテリアル)についても、本来はコンクリートを用いるが、学生がコンクリートで多数の出力を行うと、置き場所や管理がネックとなる。そのため、コンクリートではなく、土を使うことにした。
大型3Dプリンタには、自動化で施工のコストを下げ、人手不足などの課題を解決することが目標としてある。また、柔軟なデザインで製造されるものに、デザインの付加価値を与える役割もある。しかし、田中氏は、コロナ禍で今までになかった新しい価値を示す必要が出てきたと語る。
大型3Dプリンタのプロジェクトでは当初、土で試作を行い、最終的にはコンクリートで構造物を作る予定だった。しかし、コロナを受けて、最後まで土壁だけで建築物を作る方向へと方向転換した。
土壁は、湿度や湿度をコントロールし、微生物を培養する特徴を備えている。従来は、酒蔵などに使われてきたが、土壁の特性と可能性を現代のテクノロジーやサイエンスと組み合わせると、新しい価値を提示できると田中氏は話す。
近年は、床や壁などから微生物を採取し、その中にどんな菌がいるかを分析する技術が発達している。田中氏は、こうした分析技術と連携し、温度や湿度によって微生物の成長・繁殖がどのように変化するのかを計測するセンサーテクノロジーを開発している。
菌の中には、菌糸と呼ぶバイオファイバーのような糸を出す、菌類の体を構成する細い糸状の細胞がある。土壁の中の菌糸が成長している過程も、CTスキャンで見える化できるようになった。
こうした多様な進歩的な技術を採り入れながら、3Dプリンティングの側で細やかなデータ設計を行う。これにより、意図する方向にだけ通気性を持たせたり、湿度をコントロールしたりするといった機能を持った土壁を3Dプリンタで作れるようになる。田中氏は、2020年4月から既にテストを開始しており、「今後数年をかけて、with/afterコロナ社会で実用化するため、丁寧にデータを採取しながら、研究を進めていきたい」と意欲を口にした。
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