デジファブの草分け田中浩也教授が提言、afterコロナの建築3Dプリンティングで世界に先駆ける新たな価値住宅ビジネスフェア2020(1/3 ページ)

建築用3Dプリンタには大きな可能性が寄せられている。内部構造を自在にコントロールできる3Dプリンタは、通気性や調湿性を持つ建材を容易に作り出せる利点がある。デジタルファブリケーションや3Dプリンティングの可能性に、国内でいち早く着目し、普及啓発に尽力してきた慶応義塾大学 田中浩也教授は、建築3Dプリントと別のテクノロジーを組み合わせることで、新型コロナウイルス感染症の拡大で、一変したwith/afterコロナの社会に対応し、例えば増大するワーケーション需要に応えられるような施設や居住環境を創出して、市場を開拓することも可能だと提唱する。

» 2021年01月18日 06時11分 公開
[川本鉄馬BUILT]

 慶応義塾大学 環境情報学部 教授の田中浩也氏(兼任 慶応義塾大学グローバル・リサーチ・インスティチュート/環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター センター長)は、住宅・建築業界向け最新の資機材やサービスが集結した「住宅ビジネスフェア/非住宅 建築フェア/マンションビジネス総合展 オンライン」(会期:2020年10月26〜30日)で、「ウィズコロナ/アフターコロナ社会における建築3Dプリンティングの新たな役割」と題する特別講演を行った。

 本講演では、with/afterコロナを見据え、人間の目には見えないウイルスも含む“微生物”とどう共生していくかを考えた際、3密回避の半開放空間を製作する3Dプリンタを、単に3次元出力する機械ではなく、建築のパートナーとして捉え直す、全く新しい3Dプリンティングのアプローチを紹介した。

3次元の能力を引き出す、3D超高精細の設計データが鍵

 田中氏は、2007年ごろの3Dプリンタが出始めた創成期から自宅で使い始め、以降、数メートルサイズのインテリアがプリントできる機体開発など、段階を踏みながら大型化に取り組み、今では30メートルスケールのプリンタを製作した。

 ここ最近のトレンドとして田中氏は、2019年末からのコロナ禍を契機に、今後の社会全体が進むべき方向が模索され始めていることを挙げる。在宅勤務に代表されるネットワークを有効活用した働き方は、都市から地方へと働く場所を変えるきっかけにもなっている。建築界でも、新たな開放的環境が注目され、その流れは自然との共生や脱CO2、脱セメントに向けた建材開発にまで広がっている。

 3Dプリンタも、with/afterコロナ社会での新たな戦略として、自然や環境を考慮した利用が検討されている。3Dプリンタの特性を生かし、別のテクノロジーと組み合わせることで、今までに考えも及ばなかった造形物が生み出せることも見込まれる。

 3Dプリンタの特徴は、製作する物体の形状や物体の内部構造を含め、自在にコントロールできることにある。田中氏は、3Dプリンタでは3次元の能力を引き出すための設計データが重要であり、これまで超高精細な3Dデータの設計「メタマテリアルデザイン」を研究の主眼にしてきたという。

慶應義塾大学 環境情報学部 教授 田中浩也氏

 現在、3Dプリンタは、医療から建築までのさまざまな分野に利用されている。同様に、3Dプリンティングで作り出す物体のサイズも多岐にわたる。しかし、利用分野や製造物のスケールを問わずハードウェアとしての3Dプリンタの力を最大に引き出すには、3Dプリンタで作成する言わば、究極の自動化データを作れるか否かが成功の鍵になるという。

 建築では、表面や内部の構造に工夫を施すことで、通気性に優れた機能を持つ建材とすることができる。さらに、形状記憶の性能がある素材を採用すれば、温度によって形状を変化させることも実現する。

 講演では、その一例として、メルセデスベンツと竹中工務店がコラボし、東京・六本木に期間限定で開設した未来体験施設「EQ House」を紹介。EQ Houseの一部窓は、形状記憶樹脂を採用し、特定の温度(35度)になると亀裂のような徐々に開き、風通しが良くなる非電化かつ無人力のパネルを3Dプリンタで製作した。単にパネルが開放するだけでなく、温度が下がれば最初に記憶した形状へと戻ることもポイントで、「コロナ流行後は、3密を回避するためにあらゆる場所で、新鮮な空気を取り込むことが求められている。人手も使わず電気も使わず空気循環を可能にする環境が3Dプリンタで可能となり、建築物ができなかった問題点をも解消する。まさに、これからの時代のニーズに応えられる3Dプリンティング活用の新たな形と言えるだろう」(田中氏)。

3Dプリンタでは、意図した通りの内部構造を簡単に具現化できる。そのためには、超高細密の3Dデータモデリングが必須となる
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