ドローンの商用サービスが盛んになるに従い、運航管理の必要性が高まり、世界中で開発が進められている。安全かつ適切な運航を支えるために不可欠となるドローンの運行管理システム「URM」は、言うなればドローンの世界の航空管制に当たる。Japan Drone2020の講演から、NECでネットワークプロトコル、分散アーキテクチャ、データベース、機械学習などの研究開発に従事し、2017年に設立した国際的なUTMの業界団体「GUTMA」の理事も務め、産総研AIRC、理研AIP、東大情報理工にも所属し、AIを研究している中台慎二氏が世界のUTMビジネスとアーキテクチャ、標準化の動向を解説した。
日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は2020年9月29〜30日、千葉県千葉市美浜区の幕張メッセで「Japan Drone2020」を開催した。本稿では、国際カンファレンスの中から、9月30日にNECデータサイエンス研究所 主任研究員 中台慎二氏を招いた基調講演を紹介する。
今回の講演は、「世界におけるUTMビジネスとアーキテクチャ、標準化の動向」というテーマで語られた。「UTM(Unmanned Aerial System Traffic Management)」は、無人航空機の運航者が複数いる空域でも、それぞれの機体を安全かつ効率的に運航できるようにする管理システム。中台氏は、UTMの世界的な業界団体である「GUTMA(グットマ:Global UTM Association)」のボードメンバーの立場から、UTMを実現する技術や標準化に向けた最新動向などを解説した。
講演のテーマであるUTMを理解するには、前提として「UAS」と「USS」について整理しておく必要がある。
UTMは、UAS(Unmanned Aircraft System:無人飛行システム)による運航(Traffic)を管理・調整(Management)する仕組みを指す。UASは、無人航空機を管理・制御するシステムの総称であり、このサービス提供者は、USS(UAS Service Supplire)と呼ばれる。
つまりUTMは、複数のサプライヤーであるUSSがそれぞれに提供しているUASを一元的に管理し、さらに各間の調整を行って、同じ空域を安全かつ効率的に飛行できるようにする情報システムを意味する。
中台氏は、アメリカでは、ドローンなどの無人航空機の運航者に対し、USSが提供するサービス(UAS)の管理下で機体を運航することが義務化される流れになっていると話す。複数のUASを見渡しながら、ドローンの安全や効率を実現するUTMが注目される理由はここにある。
興味深いのは、無人航空機の運航をFAA(米国運輸省連邦航空局)が管理するのではないという点だ。無人航空機の運航者は、多数あるUSSの中から用途に応じたUASを選択できる。この状況を、中台氏は「航空管制のサービスプロバイダーというよりも、通信キャリアに近いようなイメージ」と表現する。
USSは、利用するドローンの運航者にさまざまなサービスを提供する。例えば、「リモートID(遠隔識別)」は、飛行するドローンの周辺にいる人のスマートフォンにドローンのIDを表示。自動車のナンバーに似た役割で、これによってドローンの所有者や機体情報などを知ることができる。
リモートIDは、FAAが2019年12月に発表しており※、2020年3月までに約5万3000件のパブリックコメントが寄せられているという。中台氏は、リモートIDが2020年末までに再発表されることになっており、その後、2023年から施行予定と説明した。
※ Federal Aviation Administration(FAA):リモートIDシステム案(Remote Identification of Unmanned Aircraft Systems)
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