【第2回】大規模修繕工事で“一部除却”が難しい理由建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(2)(2/2 ページ)

» 2020年08月06日 10時00分 公開
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数量・単位に隠れた物量計算

 会計人を悩ますものに単位がある。図表3のように工事内訳書の多くは、単位の欄に「式」と記入され、数量の欄には「1」と記入されている。

工事内訳書の数量と単位(工種別内訳書)(図表3)

 多くの会計人は、この数量「1」と単位「式」の意味を知らないため、一部除却ができないと思い込んでいる。この数量「1」と単位「式」が理解できれば、建物が物量計算によって構築されていることを把握し、すなわち一部除却が可能なことが分かるだろう。

 建築工事内訳書標準書式検討委員会で制定された「2003年(平成15年)版 建築工事内訳書標準書式・同解説」において、「式」の意味が示されている。詳細は、紙面の関係上省略するが、簡単にいえば、建物は物量計算によって成立しているということだ。

 工種別に個々の科目は「数量×単価」という計算によって算出されている。建物は大部分が工種別の積み上げ計算であるため、物量計算といえる。つまり、大規模修繕工事の際に除去した数量が分かれば、一部除却が可能なことが理解できる。

 しかし、単位の欄に「式」と記入され、数量の欄には「1」と記入されていては、建物が物量計算によって成立していることを理解するのは困難であろう。従って、物量計算の十分な根拠が示されていないものは、岩田理論から言えば、エビデンスと呼ぶには問題がある。

会計人が工事内訳書を学ぶ or 建設会社が会計学・税法を学ぶ

 会計学の専門書では、エビデンスをもとに会計処理を行うことの大切さが記述されている。しかし、エビデンスの読み方、解読の仕方について言及するものは、非常に少ない。

 仮に一部除却を行うにあたって建築の専門家が会計などの知識を付ける方が得策なのか、または、会計人が工事内訳書などの専門知識を得る方が得策なのか、考えた場合、どちらも他の学問領域の知識を修得するのは、決してたやすいことではない。

 そう考えると一部除却は普及せず、クライアントは架空資産を発生させ、無駄な税金を払いつづけるという問題に陥る。一部除却ができないということは、大規模修繕工事の資金調達の足かせになり、持続可能な社会構築、循環型社会形成を阻害することになるのだ。

 次回は大規模修繕工事を阻害する大増税の仕組みを解説する。

著者Profile

土屋 清人/Kiyoto Tsuchiya

千葉商科大学 商経学部 専任講師。千葉商科大学大学院 商学研究科 兼担。千葉商科大学会計大学院 兼担。博士(政策研究)。

租税訴訟で納税者の権利を守ることを目的とした、日弁連や東京三会らによって構成される租税訴訟学会では、常任理事を務める。これまでに「企業会計」「税務弘報」といった論文を多数作成しており、「建物の架空資産と工事内訳書との関連性」という論文では日本経営管理協会 協会賞を受賞。

主な著書は、「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)、「建物の一部除却会計論」(2015/中央経済社)、「地震リスク対策 建物の耐震改修・除却法」(2009/共著・中央経済社)など。

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