熊本県にある玉名市役所は、橋梁を職員が補修する取り組み「橋梁補修DIY」や事前点検の効果見える化などにより、2017年度までに点検が完了した橋梁747橋のうち、橋梁判定区分III(早期措置段階)とIV(緊急措置段階)の修繕着手率が100%を達成した。一方、国土交通省は公共団体が発注した業務を受託した民間会社が受注業務を効果的に行える制度「包括的民間委託」を立ち上げ、東京都府中市で試行し、従来方式と比較して、コストカットなどで効果を発揮している。
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インフラメンテナンス国民会議と日本経済新聞は、「社会インフラテック」(2019年12月4〜6日、東京ビッグサイト)で、トークセッション「本音のインフラメンテナンス〜体制・組織・人のあり方」を開催した。
セッションでは、政策研究大学院大学 教授 家田仁氏がコーディネーターを務め、中日本高速道路(NEXCO中日本) 代表取締役社長CEO 宮池克人氏や玉名市役所 建設部 土木課 橋梁(きょうりょう)メンテナンス係長 木下義昭氏、国土交通省 総合政策局 公共事業企画調整課長 森戸義貴氏、東芝インフラシステムズ 社会システム事業部参事 熊倉信行氏がパネリストとして登壇し、各企業や団体の取り組みなどを紹介した。
セッションの後半では、まず、熊本県にある玉名市役所の木下氏が「メンテナンスの実作業を支える現場職員そのモチベーションの源泉」と題し、管轄する橋梁を職員自ら補修する「橋梁補修DIY」を説明した。橋梁補修DIYは橋梁のアルカリ骨材反応(ASR)や塩害、中性化を防ぐ目的で、職員が支承清掃や断面修復、橋面防水、漏水補修を実施する。身近にある製品で橋梁をメンテナンスしているのが特徴で、例えば、漏水の補修では、降雨対策として、養生に片栗粉を用いている。
橋梁補修DIYを木下氏が始めたきっかけは、2016年4月14日に熊本県と大分県で相次いで発生した「熊本地震」にある。当時、玉名市役所 建設部 土木課に配属直後だった木下氏は、熊本地震を経験し、橋梁管理の重要性と危機感を感じ、橋梁補修DIYをスタートした。
「地域住民の高齢化により、建設業の担い手不足と住民参画が縮小していたことや橋梁メンテナンスサイクルは、補修措置が完了しなければ回らなかったことも橋梁補修DIYを始めたことに関係している。毎日の現地踏査で、橋の劣化を発見した場合、できるだけ早く措置したいという思いと、一般的なアセットマネジメントを構築すると、たとえ小集落には必要な橋であっても、優先順位の低い橋と見なされれば、措置が遅延する可能性があり、管理者として補修の遅延を見過ごしたくないという思いも、橋梁補修DIYに着手する動機になった」(木下氏)。
また、従来、玉名市役所は財政力や人員、技術力不足を背景に、事後保全で橋梁を管理していたため、国土交通省が「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」を告示した後も、事前点検に舵を切れずにいたが、木下氏は状況を打開した。
最初に、道路ストック総点検後の対処が遅れ、全面通行止めしていた橋梁に、地域特性を利用した合意形成で、架替(かけかえ)から補修対応へ年度途中で方向転換し、大幅なコスト縮減を図り、事前点検の予算を捻出した。提案書も200枚以上を作成し、財政部局や上司に対して、事前メンテナンスの必要性と取り組みの効果などを細部まで説明。独自の記録表を用いて、事前点検の効果を見える化し、実績も毎年報告した。複数の施策により、財政部局や市役所内の上司と上層部に事前点検の有用性について理解を得て、継続的に事前点検が行える環境を整えた。
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