“ハーネス”の着用をICT×5Gで見える化、NECと錢高組らが実証に成功現場管理

NECや錢高組など建設・IT関連企業で構成する建設業の5G活用に向けたワーキンググループは、建設現場で墜落制止用器具が着用されず重篤事故につながっている現状を踏まえ、ビーコンやセンサーで着用を促し、現場状況を可視化するシステムを開発した。今後は、5Gを活用して、高精細な映像で現場の着用状況を現場管理者がモニタリングできるように実用化を目指す。

» 2020年04月30日 06時00分 公開
[BUILT]

 NECと建設・IT関連企業で構成するワーキンググループは、5Gを活用した建設現場の安全性向上への取り組みの第1弾として、高所作業時の墜落防止に必須となる安全帯(正式名:墜落制止用器具)※1の使用を促進するシステムを共同で開発した。

※1 厚生労働省 墜落制止用器具に関わる質疑応答集(1 墜落制止用器具の定義)

作業員のヘルメットに振動ビーコンを取り付け、ハーネス着用を促す

NECネッツエスアイの研修施設内で行われた実証実験 出典:NEC

 プロジェクトは、建設会社にヒアリングを行うとともに、複数のITベンダーとディスカッションや試作を行った後、実際の鉄塔を用いた実証試験で、建設現場での安全帯着用の注意喚起に有効だと確認された。

 NECは2018年に、5Gの可能性を追求するため、多様な企業とパートナーリングを組み共創を進める「5G Co-Creation Working」を創設。今回の実証は、このワーキングの枠組みで建設業やIT関連の企業など、NECを含めた9社が参加する建設ワーキンググループが行った。参加企業は、アバナード、ケンブリッジコンサルタンツ、CIJネクスト、錢高組、カナダのSolace、プロフェッショナル・ネットワークス、ユビテック、日本電気通信システム。

 開発理由についてワーキンググループでは、近年、建設業界で恒常的な人手不足が大きな問題となっている一方、労働災害の発生数が依然として多く、全産業における建設業の死亡災害は全体の34%を占めていることを挙げる。なかでも死亡や死傷の災害原因は、「墜落・転落」が最多となっており※2、こうした事態を踏まえ、「5GやICTを活用して建設現場から墜落・転落事故ゼロを共創で目指す」を合言葉にプロジェクトが始動した。

※2 厚生労働省 2018年労働災害発生状況の分析

 また、墜落・転落事故に対して厚生労働省は、高所作業でのフルハーネスなど墜落制止用器具の使用徹底による墜落転落の防止を推進しているが、国土交通省の調査では、足場からの墜落事故における保護具の使用状況は「安全帯を装着したが未使用」が66.7%を占めているのが実態だ。そこで、ワーキンググループの初弾では、墜落を防止する安全帯の使用状況を改善するシステムの実用化をターゲットとしたという。

 実証で使用したシステムは、高所作業場にサインビーコンを設置し、作業員のヘルメットには振動ビーコンを取り付け、作業者が所定の高所エリアに入ると振動によるアラートで安全帯の着用を促す仕組み。同時に、安全帯のフックにはセンサーが取り付けてあり、フックを掛けることでアラートが停止する。加えてフックの使用状況や作業員の位置情報は、今回はLTEを介して、常時サーバに送信した。これにより、現場監督などの現場責任者は、管理画面で安全帯の使用状況をリアルタイムに確認できる他、蓄積されたデータを用いて作業場全体の安全帯使用状況を分析することにも役立てられる。

システムの概要 出典:NEC

 実証実験は2020年3月、NECネッツエスアイの研修施設内にある鉄塔で行い、アラートによる作業員への安全帯使用の通知や無線ネットワークを通じた使用状況の確認に成功した。参加企業の錢高組からも、「今回の実証でICT活用による墜落事故防止の可能性が見えてきた」との評価が得られたという。

 今後は、普及が見込まれる5Gを活用して、作業現場からリアルタイムで高精細な映像を送信し、安全帯の着用状況を管理者がより視覚的に把握できるように開発を進める。その先には、外部関係者へのヒアリングを通じて、高精細映像を利用した他の労働災害の防止策についても検討していく方針を示している。

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