積水ハウスは、住宅業界におけるITを活用した働き方の改革の取り組みを進めている。その象徴である2010年からプロジェクトがスタートした「邸情報プロジェクト」は、総額89億円を投じ、社内でこれまでバラバラに運用されていたCADシステムを一元化するだけでなく、開発から、設計、生産、施工、引き渡し、アフターケアまで全工程一気通貫の全社最適化を実現した。この成果として、年間87億円もの継続したコストダウンが達成されたという。
積水ハウスでは、経営と現場をシームレスにつなぐITを重要視し、2009年にグループ会社含む全社のIT部門を統合して「IT業務部」を発足させた。一般的な単なるシステム導入だけでなく、サポートも行いながら現場の声をフィードバックして、経営視点で各部門への伝達と同時に横の調整も行っている。
2010年からは5年をかけ、総額89億円を投じ全社横断のプロジェクトとなった「邸情報プロジェクト」に着手。生産性を妨げ、労働環境の悪循環を招いていた住宅建築の各工程を一元化するCADプラットフォームを構築した。開発から、設計、生産、施工、引き渡し、アフターケアまでのフローを一気通貫にすることで、全社で業務が最適化された。この成果として、年間87億円もの継続したコストダウンが達成されたという。
将来に向けた構想では、条件を入力するだけの3次元モデル生成やAIを活用した設計業務の効率化、VR上での変更をモデルに自動で反映するなど、次の展開も視野に入れている。これまでのCADプラットフォームの取り組みと、これからの展望をIT業務部部長の上田和巳氏に聞いた。
上田氏は1989年、積水ハウスに入社。建築畑の技術研究所に配属された後、2000年に新設されたICT推進部に異動し、住宅サポート情報を提供するオーナー向け会員制サイト「Netオーナーズクラブ」の立ち上げやIT住宅&eタウン実証実験などを担当。2006年からは、情報システム部(現IT業務部)でIT活用推進の全社横断プロジェクトに携わっている。
――IT業務部の成りたち
上田 IT業務部は、元をただせば古くは1970年代に経理部内計算課として設立され、電算部、情報システム部を経て、2009年にグループ会社を含む全社のITを統合する部門として成立した。
住宅業界は、一般的に大量受注/大量生産といわれるが、地域特性や邸別の自由設計によって複雑な業務体系が敷かれている。
とくに労働集約型産業で、営業、設計、施工、点検の各業務で、バケツリレー式に図面などのデータが渡されるため、各業務が独立して処理するという見方を変えれば非効率なビジネスモデル。
それぞれの部門のシステムも独立しており、単独での効率化は図られていたが、本当の意味で業務の再構築“リストラクチャリング”を思い至ったときに、ITシステムに業務が縛られてしまっていた。工場の一部業務を営業所でもやろうとしても、システムが分離しているため、融通が利かず、IT部門にいた身としては自分たちのITが業務を硬直させてしまっていることへの歯がゆさを感じた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.