三菱地所 執行役社長・吉田淳一氏は「五輪関連施設は、大会終了後の利活用が課題とされているが、本プロジェクトでは、晴海での運用後に真庭市へ移築することで集客施設として再利用する。事業推進では、地方創生推進交付金制度や企業版ふるさと納税制度などの活用を見込み、地方と都心を結び、国産木材生産量の向上と地方創生の実現を目指したい。CLTが、今後の日本を支える起爆剤となることを期待している」と語った。
CLTは、木材の繊維を直交方向に重ね、接着剤で一体化した床や壁に使う面材を指す。鉄筋コンクリート(RC)造に匹敵する強度を持ちながら、同程度の体積でRCの1/5〜1/6の重さ。軽量のため運搬が容易で、パネル自体は工場で製造されるため、RCの様に乾かす必要が無く、施工現場でボルトを締めて組み立てるだけで済む。仮設・労務費といった工事費の削減や工期短縮が見込める他、構造のスリム化や“木の現(あらわ)し”といった意匠が戸建て住宅だけでなく、中〜大規模建築物でも表現できる可能性がある。
木材そのものではなく、CLTを促す理由としては、地震力の大きさと耐火構造の考え方がある。地震が多発する日本では、欧米の倍以上の対策が求められ、コスト負担へと跳ね返る。工事費を抑えられるCLTであれば、5階以上でも、鉄骨やRCと併用したハイブリッド構造で対応することは可能だ。
耐火構造では、海外は火災発生から規定時間までの間に倒壊さえしなければ良く、燃え代設計による木構造の現しが適用できる。日本では、石こうボードの被覆が必要で、木の現しは耐火集成材以外では規制をクリアできないことが現実としてある。
海外でのCLTは、1995年頃からオーストラリアを中心に発展し、2018年には市場登場から20年以上でおよそ40倍もの増産予想がされるほどまでに活用され、今ではカナダやアメリカでもCLTを利用した高層建築が建設されている。
国内では、2013年12月に製造規格のJAS(日本農林規格)が制定されたことを皮切りに、2016年4月にはCLT関連の建築基準法告示が公布・施行されたことで、CLTの一般利用がスタートした。内閣府が中心となってロードマップを策定し、2020年度には年間10万m3の生産体制を構築することを掲げられている。
三菱地所では、日本初のCLT高層マンション「高森2丁目プロジェクト(宮城県仙台市、設計・施工:竹中工務店)」、沖縄県宮古島市の下地島空港のZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)施設「みやこ下地島空港ターミナル(沖縄県宮古島市、設計:日建設計、施工:國場組・大米建設JV、CLT施工:山佐木材)」などで、CLT推進に注力してきた。
CLT 晴海プロジェクトは、それらに続く、CLTで都市と地方をつなぐ、“循環型社会”を体現する新たな試みとして、設計・監理に三菱地所設計、施工は三菱地所ホームで、グループ全社を挙げて取り組む。
真庭市市長・太田昇氏は、市のCLTに対する施策を紹介。真庭市は林業が盛んで、国内最大規模となる年間で最大生産能力3万m3のCLT工場を有しており、市内でホテル、市営住宅、オフィスなどで既に多数の導入実績がある。「資源の乏しい日本で、木材は年々成長しているが、ほとんど利用されていないのが実態。CLTをどう普及させていくかが、地域活性化につながる」と提言した。
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