進化するBEMSで実現、「予兆保全」が建物の資産価値を高める基礎から学ぶBEMS活用(4)(2/2 ページ)

» 2017年08月18日 06時00分 公開
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直感的操作が可能なアプリケーションの充実

 BEMSでエネルギー解析などを行う際には、さまざまな視点でグラフ化やデータ処理を行います。しかし、こうしたデータ処理の設定が面倒であったり、グラフのちょっとした変更が難しかったりなど、専門性が高すぎてしまうとオペレーターの方が扱いにくくなってしまいます。すると、建物の完成時に設定した内容を、現状に合わせて変更せずにそのまま使用してしまったり、搭載されたアプリケーションの便利な機能がうまく活用されていなかったり、ということが起こります。

 一方、近年は直感的に操作できるユーザー・インタフェース(UI)を持つスマートフォンやタブレットが広く普及しています。こうしたデバイスや、その上で利用するアプリケーションは直感的に利用でき、操作のたびにマニュアルを見る必要はほとんどありません。

 そこでビルオートメーションシステムのメーカーも、皆さんが使い慣れたタブレットを監視装置端末に採用したり、ビル設備管理業界やメンテナンス業界でも機動性を考慮し、タブレットやスマートフォンを業務に導入したり、といったケースが年々増えてきました。前述の通り、スマートフォンやタブレットのアプリケーションはマニュアルを見ること無く、直感的に“タップ”や“スクロール”で操作や確認が行えます。これと同じように、直感的に利用できるBEMSアプリケーションも登場しはじめており、従来と比較して利便性が向上しています。

スマートフォン、タブレットと同じ感覚で操作できるBEMSも登場し始めている

監視・管理点から設備のビッグデータで予測・診断へ

 旧来のビルオートメーションシステムは、監視・管理を目的とし、機器の運転・停止や故障した際にアラームとしてオペレーターに通知することがその役割の大半を占めていました。BEMSではそれらの状態を監視制御することはもちろんですが、監視装置上に表示されていないデータも制御の過程で使用しています。これらのデータは、パソコンのHDD容量が少ない時代は蓄積できませんでしたが、現在は容量の大幅な増加と低コスト化により、制御量(バルブ開度、ダンパー開度など)に関するデータも蓄積できるようになりました。

 このようにして蓄積された膨大なデータを加工処理するにはスキルと時間が必要になりますが、不具合検知アプリケーション(FDD:Fault Detection and Diagnotics)をBEMSと併せて導入することで、日々収集・蓄積されたビッグデータと、これまでの経験やノウハウを考慮して構築されたアルゴリズムによって、不具合の事前検知が自動で行えるようになります。

 一例を挙げると、夏場の冷房時、室内の計測温度が室内温度設定(26℃)を超えたとします。しかし、冷水バルブの開度出力は100%(全開の状態)で、空調機などに機器異常も見られないのに計測温度が下がりません。この場合、FDDを利用すると、その原因が冷水供給の不足(温度、流量など)や、室内負荷が設計値以上であることなどが推測できます。

FDDを利用することで不具合の原因を素早く特定することが可能に

 冷房時に室内が冷えすぎるといった状況では、冷水バルブ開度出力0%(全閉の状態)が継続し、計測温度が設定値に近づかない時間が〜分継続するといったロジックを構築しておくことで、機器の不具合が検出できます。この場合は、冷水バルブのリーク(漏れ)が疑われるため、調整やバルブ交換といった作業の必要性を、早期に認識できます。

 こうした予兆保全による不具合の早期発見は、室内環境の不満足はもちろんですが、エネルギーのムダな消費の改善にもなります。バルブ自体は警報を出すことはまれですから、このようなリークを判断するのは、設備情報のビッグデータ解析が得意とするところです。

 このように不具合を事前検知することで、「故障してから対処する」といった従来の手法より、ダウンタイムを大幅に短縮できる、効率的なメンテナンススタイルにシフトしていくことができます。これは、資産価値の損失を防ぎつつ、ライフサイクルコストを低減することにもつながります。

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