進化するBEMSで実現、「予兆保全」が建物の資産価値を高める基礎から学ぶBEMS活用(4)(1/2 ページ)

ビルの効率的な省エネ施策に欠かせないIT/IoT活用。本連載ではBEMSを筆頭に、あらためてその仕組みや導入のポイントなどを解説していく。第4回はBEMSの進化の流れ、そして建物のビッグデータを活用することのメリットについて紹介する。

» 2017年08月18日 06時00分 公開

 前回はBEMSを導入する際に活用できる補助金制度と、BEMS導入支援事業の今後の展望についてご紹介しました。今回は、BEMSを構成するビルオートメーションシステムの発展と、それに伴い可能になりつつある建物のビッグデータ活用が、資産価値の維持・向上にもたらすメリットを解説します。

メーカー独自のクローズドシステムからオープンシステムへ

 1990年代、ビルオートメーションシステム(BAS)は、各メーカーが独自に最適化しやすい通信方式を採用したことで、メーカー依存度の高いシステムとなっていました。BEMSに必要な各種エネルギーデータの収集も、そのメーカーから提供されている機器を選ぶ、もしくは他メーカーの機器を接続するために高額なインタフェースを導入する必要があり、ビルオーナーにとっては設備コストがかさむ状況にありました。

 2000年代に入りこれらの状況を解消すべく、相互接続が可能なマルチベンダーのニーズが高まります。それとともに、高額なインタフェースを必要とせず、多彩なメーカーのシステム・機器を自由に組み合わせて接続できるオープンシステムの実現に向け、通信方式の標準化が進みました。そこで登場したのが、現在、世界のビルオートメーションシステムの主流通信プロトコル規格となっている「BACnet」です。1995年にアメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)で規格化(ASHRAE/ANSI 135.1)され、2003年に国際標準規格ISO16484-5として規定されました。

従来のクローズドなシステム(左)と、BACNetを利用したオープンシステム(右)の比較

 BACnetは、空調、防災、照明、セキュリティ、エレベーターなどのビル設備との通信プロトコルが定義されています。そのため、インターネットレベルでの通信方式(BACnet-IP)や、フィールドデバイス向けの通信方式(BACnet MS/TP)を採用した機器を、運用にあわせて選択、導入することが可能です。これにより、適材適所にさまざまなメーカーの製品をベストミックスで導入し、接続することができます。ライフサイクルコストの低減をはじめ、BEMSに必要なエネルギーデータを計測、計量する機器の増設も容易になるなど、ビル運用に大きなメリットをもたらします。

建物設備におけるビッグデータとBEMSの役割

 初期のBEMSは、1時間ごとの計量、計測が最小単位で収集されていましたが、現在では1分毎のデータ収集も珍しくなくなりました。これほどまでの大量のデータ収集と蓄積・解析を可能にしたのはPC、サーバなどのハード面の進歩が大きく貢献しており、建物設備のビッグデータ化を後押ししています。

 第2回で解説したとおり、BEMSアプリケーションを併せて活用することで、これらの蓄積されたビッグデータを、専門的なスキルを持たなくても、建物のエネルギー管理者やビルオーナーは簡単にグラフ化し、比較・分析することが可能になります。

 また、インターネット環境への接続が一般化されたことにより、複数の建物のエネルギー管理も容易に実現できるようになりました。さらに、一般企業でのエネルギー収支報告や、温室効果ガス削減施策の効果確認など、BEMSに蓄積されたデータをビル管理者だけではなく、テナントとして入居している企業の管理者などへも容易に提示できるようになるなど、その役割はますます増えています。

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