ロー氏はバーチャル・シンガポールの完成に向けては、「Virtualize(仮想化)」「Visualize(可視化)」「Venturize(商業化)」という3つの段階があると語る。仮想化はシンガポールの都市・国家を3Dモデルとして再現すること、可視化は3Dモデルにさまざまな属性データを付与し、さらにそれらを閲覧できる状態にすることである。そして最終段階の商業化とは、バーチャル・シンガポールというデータベースを、具体的な問題解決や改善のために活用する段階を意味している。
バーチャル・シンガポールの具体的な活用例として、まず考えられるのが都市計画だ。特定地域の詳細な都市計画や環境解析といったスタンダードな利用方法の他、ロー氏は市民参加型の都市計画や政策立案に活用できる可能性も指摘する。例えばVRシステムを利用して、バーチャル・シンガポールの中を擬似的に歩き「どういった道路を整備すべきか」「どこに街路樹を配置すべきか」といった意見をフィードバックしてもらうことで、都市計画や制作に市民の意見を取り込むといった活用方法だ。
また、電波の伝播解析を行うことで最適なWi-Fiポイントの設置計画や、リアルタイムデータを利用した高齢者や子供の見守り、災害時の最適な避難経路の算出など、サービスや防災対策への利用も考えられる。ロー氏は「さまざまなデータを見える化すると、色々な気付きが生まれる。これは非常に重要なことだ。人口動態などの将来を予測した、データドリブンな政策や都市計画を策定できるようになれば、大きなメリットが期待できる」と語る。
このように、完成すれば「ほぼ無限」の利用方法が考えられるバーチャル・シンガポールだが、現在はまずは政府向けのシステムとして2018年の完成を目指している。将来は一般市民にも公開する予定だが、さまざまなデータを内包したデータベースであるだけに、セキュリティやプライバシーの問題も懸念される。ロー氏は「データの公開範囲やセキュリティの部分については、現在も議論を進めているところだ。例えば政府の高官だからといって、バーチャル・シンガポールに集まる全てのデータにアクセスできるというわけではもちろんない。プライバシーやセキュリティについてもしっかりと議論を進めつつ、将来は誰でも使えるデータベースとして公開していきたい」と述べている。
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