取り組む領域を定めた後は、現場で生まれる情報の集め方と使い方を見直す。中野氏は、現場の会話をAIで整理し、業務上の判断に生かすとともに、経営者が現場の状況を直接把握できるようにする「一次情報経営」を提唱している。
例えば技能継承では、熟練者に聞き取りするだけでは、本人が意識せずに判断している「暗黙知」を引き出しにくい。ブリングアウトが支援する大手メーカーでは、品質問題の対策会議での発言を記録し、AIで整理している。建設業なら、施工検討会や不具合の対策会議で、ベテランの所長や職長が段取りや原因をどう見立てたかがこれに当たる。
記録として残すべきなのは、熟練者が提案した対策だけではない。どのような問題が起き、熟練者が原因をどう推測し、何を提案したか。その後の結果もひも付けて蓄積すれば、別の現場で似た問題が起きた際に過去の対応を参照できる。会議の内容を議事録として残すだけでなく、次の判断に使える形で蓄積することが重要だという。
会話の記録は、リスクの把握にも生きる。同じメーカーの工場では以前、現場が気づいた品質上のリスクを工場長が知るまで半年かかった。そこで工場の会議を録音し、品質不具合や生産の遅れに関わる重要な話題をAIで毎週まとめ、管理職に届けている。建設業なら、現場の定例会議や協力会社との打ち合わせから、工程の遅れや品質、安全に関わる発言を拾って支店長に毎週届ければ、所長が一人で抱えていた懸念にも早く手を打てる。
ブリングアウトが支援するビル設備会社では、商談の録音から、作業員の詰所や喫煙所、トイレの位置など、施工前に確かめるべき事項を営業が聞けたかをAIが判定し、聞き漏れは次の訪問で補って手戻りを防いでいる。説明の食い違いなど、クレームの芽になる顧客の声を拾って管理者が先回りする仕組みも整えつつある。いずれも報告書を新たに書かせず、既に開いている会議や商談の録音から始めている。
AI活用による業務の変化が経営課題の解決につながっているかを測るには、最終的な業績だけでなく、そこに至る過程にも目を向ける必要がある。成果が表れるまでの期間は、取り組む領域によって異なるためだ。
受注まで時間がかかる場合は、顧客から案件情報を得られた割合など、商談の途中段階を測る。短期間で変化が見える指標もある。先のビル設備会社の例なら、施工前に確かめるべき事項を商談で聞けた割合だ。これが上がれば、仕様を決める会議での追加確認が減り、支店全体で会議に拘束される時間も短くなる。リスク把握なら、現場の懸念が支店長や本社に届くまでの日数も指標になる。何を指標とするかは、解決したい課題と変更する業務に応じて定める必要がある。
生成AIで何を効率化するかではなく、自社の競争力を左右する業務をどう変えるか。その問いに向き合い、活用する領域を見定めて成果につなげることが、経営者に求められている。
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