先の事例では安全確保を目的に遠隔施工を実施したが、大浦氏は「地域建設業が抱える課題はそれだけではない」と指摘する。その課題とは人手不足だ。中和コンストラクションは次の段階として、省人化や生産性向上を主目的とした遠隔施工に取り組んだ。 国土交通省のSBIR制度を活用し、中和コンストラクションはORAM、ハシダ技研工業、ティー・エル・エス、加藤工務店と5社でコンソーシアムを組み、採択を受けた。
対象となったのは、砂防堰堤の現場だ。現場発生土とセメントを混合してINSEM材を製造し、堤体材料に用いるINSEM工法で施工した。遠隔化は、INSEM材の製造機「メサイア」と、その周辺作業を担う2台のバックホーを含む一連の作業に適用した。
建機には、コンソーシアムで開発した後付け可能な遠隔操縦装置「RemoDrive」を取り付けた。さらに、建機スイッチング機能「SwitchingCab」で、一つのコックピットで複数の建機を操作できるようにした。メサイアについても、起動や停止、センサー情報の確認、エラー箇所や故障箇所の把握、データ抽出を遠隔で管理可能にした。
現場は通信不感地帯だったため、衛星通信のStarlinkで現場事務所と施工ヤードを接続した。施工ヤードでは、Rajant製の通信機器とRPT機能を活用し、通信の安定化を図った。
検証の結果、100立方メートルあたりのINSEM材製造では、遠隔施工により施工効率が約30%低下した。一方で、SwitchingCabによって2台のバックホーを1人で操作可能になり、メサイアの起動や停止なども事務所から対応できるようになり、現地の省力化につながった。具体的には、職員を除く作業員の工数は約28.3%減り、概算延べ工数のシミュレーションでも約29.0%の削減効果を確認した。
遠隔施工の効果。施工効率は約30%低下したものの、2台のバックホーを1人で操作できるようにしたことで、作業員の工数削減につながった。大浦氏は「ここがさらに進むと、削減工数はもっと増える」と期待を寄せる移動時間の短縮も大きな効果として表れた。現場事務所から施工ヤードまでは片道30分、本社のある桜井市から現場事務所までは片道約2時間かかる。今回は操作室を現場事務所に設けたため、削減効果は限定的だったが、将来は本社内や本社近くに操作室を設置できれば、移動時間のさらなる削減が見込める。
加えて、メサイアに母材を投入するホッパーにカメラを取り付けたことで、従来は経験や感覚で判断していた投入量を目視で確認できるようになった。マシンコントロールによる投入位置や高さの制御は、メサイアの安定稼働や帳票作成時間の削減にもつながった。大浦氏は「INSEM材の製造がクリティカルパスだったため、メサイアの稼働時間が長くなったことは、数字として表れにくい生産性の向上につながった」と説明した。
一方で、通信環境の安定性には課題も残った。Starlinkは複数の衛星を切り替えながら通信を維持するが、切り替え時に一時的な通信断が発生することがある。「通信のタイムアウトをいかに抑制できるかは、今後の検討課題だ」と大浦氏は述べた。
中和コンストラクションは、こうした取り組みにより、「令和7(2025)年度 インフラDX大賞 国土交通大臣賞」を受賞した。大浦氏は、「災害現場での安全確保から出発し、足掛け9年にわたって遠隔施工を継続してきたこと、電波不感地帯でStarlinkを活用した長距離遠隔操作を実現したこと、SwitchingCabによる複数重機の一人操作、メサイアの遠隔化による省人化と生産性向上、そして地方建設業でも実現可能な形に落とし込んだことが、評価されたのではないか」と推察した。
今後については、RemoDriveとSwitchingCabに加え、多種通信規格プラットフォームを中心に、中小企業の土木工事に適した遠隔化/自動化ソリューションの現場実装を目指す。大浦氏は遠隔施工によって、「建設業で働きたい人が参加しやすい環境をつくりたい」とも語った。子育てなどで長い時間を取れない人、病気や怪我で障害を負った人でも、遠隔施工であれば隙間時間やバリアフリー環境、自宅や施設から建設現場に関われる可能性があるからだ。
さらに大浦氏は、遠隔施工の可能性を国内全域、海外、さらには宇宙へも広げる。「奈良から月へ」。そうした夢は、社員の仕事へのモチベーション向上にもつながると期待を示した。
中和コンストラクションでは、ICTやDXへの取り組みを始めてから、売上と利益の両面で業績が拡大しており、人材採用の面でも一定の効果があったという。大浦氏は、それだけが理由ではないとしつつも、「ICT施工や建設DXに取り組むことで、これまで土木や建築には一切興味がなかった人にも、興味を持ってもらえるようになったのではないか」と予想した。「もちろん、新しい流れを受け入れられず、会社を離れた人も一定数いた。それでも、会社の事業継続性を考えるとICTやDXは、もはや避けて通れない」と明言した。
中小の建設業が大手のように多額の費用をかけて、技術開発することは現実的ではない。しかし、市場にある技術を組み合わせ、創意工夫によって現場で使える形にすることはできる。大浦氏は、現場から「やりたい」「やってみたい」という声があれば、経営者はまず「やってみる」「やらせてみる」姿勢を持つことが大切だと提言した。
最後に大浦氏は、「知覚動考」という言葉を紹介した。知って、覚えて、動いてから、考える。読み替えれば「とも(知)、かく(覚)、うご(動)、こう(考)」となる。「熱意が100%のうちに、まずは動き、行動してほしい」と大浦氏は語りかけ、講演を締めくくった。
アクティオが「建機遠隔化」をレンタル開始する狙い 鹿児島〜東京間をStarlinkで操縦成功
埋設物をバケットで検知 西尾レントオールがCSPIで最新ICT施工と熱中症対策を展示
建機の遠隔操縦、Starlinkで安定制御 国交省の現場検証で確認
「後付け」で既存建機を遠隔操作 車いす利用者でもオペレーターに
月面での建設機械の遠隔操作・自動運転を目指した遠隔施工実験を実施、鹿島建設ら
建機の遠隔化から山岳工事の獣害対策まで カナモトグループが共同出展
“ウクライナ復興”に日本発の建機遠隔技術を キーウと神戸をつなぎ国交省が実証
リアルタイムデジタルツイン基盤を活用、掘削作業の遠隔施工を実証 日立建機と福留開発Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
人気記事トップ10