続いて吉田氏は、2024年の能登半島地震を踏まえた直近の国の災害対策を紹介した。能登半島地震では、半島特有の地形に加え、高齢化率の高い地域で支援が行き届きにくく、多くの「災害関連死」が発生した。そのため、国は「避難生活環境の改善」を重要テーマとして位置付けている。吉田氏は、「高齢者が多い地域では、避難所でも福祉サービスを受けられることが重要となる」とし、福祉サービスの充実や災害対応資機材の導入検討が進められていると説明した。
防災DXと官民連携の強化では、2024年には「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)」が立ち上がり、国や指定公共機関、民間事業者が災害情報を集約、分析、共有する仕組みが始動した。吉田氏は、行政単独での対応が困難なことを改めて訴え、「NPOやボランティア、物流業など民間の力を災害対応に取り込む、官民連携の仕組みが広がっている」とした。
法制度の見直しでは、避難所での福祉サービスの役割や広域避難の円滑化、NPOの専門的支援の活用を法的に明確化している。インフラ関係では、液状化対策の推進、道路啓開計画の法定化など、実効性のある施策へとつなげている。
吉田氏は、2025年度予算の国の支援についても言及。現在、国は被災自治体からの要請を待たずに、国や都道府県が被災地に物資などを届ける「プッシュ型支援」のための物資備蓄を進めている。避難所環境の改善も重点化し、キッチンカーやトレーラーハウスの登録制度を創設し、温かい食事や快適なトイレを提供できる仕組みづくりにも乗り出している。
さらに、約100億円規模の交付金を創設。市町村が循環式シャワーや炊き出し資機材などを整備できるように金銭面でサポートしている。
講演後半では、民間企業の防災対策や事業継続計画(BCP)に話題が移った。吉田氏は「大規模地震による事業中断は、企業の業績や競争力低下だけでなく、サプライチェーンを通じて社会全体に影響が及ぶ」と指摘し、企業自らが備えを強化する必要性を訴えた。 まず取り組むべきは、人命と資産を守る防災対策。耐震化や家具の固定、避難経路の確認、安否確認手順の整備など、身近な対策が被害の軽減につながる。首都直下地震では帰宅困難者の発生が想定されるため、「少なくとも3日間は無闇に移動しない」という国の呼びかけに対応できる備蓄も不可欠だ。
次に重要となるのが、発災後に事業をどう継続するかという視点だ。吉田氏は「地震が起こってから考えてもできることには限界がある」と警告し、平時にBCPを作成、訓練、共有する重要性を説いた。
BCP作成に当たっては、基本方針を明確化した上で、事業中断による影響やリスクを分析し、必要なリソースや復旧までの時間を想定して計画を立てることが求められる。製造業ではサプライチェーン全体を考え、仕入れ先の分散や代替確保といった“垂直的な対応”に加え、他部署や他企業と協力し合う“水平的な対応”も必要となる。
続いて吉田氏は、BCPの策定状況について、具体的なデータを示しながら報告。大企業では策定率が76.4%に達している一方、中堅企業は5割未満、建設業はわずか13.5%にとどまっている。調達先の分散や拠点の多様化も十分に進んでおらず、取引先の被災を想定した対応は26%程度にとどまっている。
こうした現状を受けて吉田氏は、「災害対策に取り組む企業は株式市場でも高く評価される」という米国の事例を紹介し、日本でも取引や発注の場面で、BCPの有無が信頼性の指標となる環境が求められるとした。
また、吉田氏は国もBCPの普及を後押ししていると話し、小企業向けのガイドラインやパンフレットの配布に加え、「事業継続力強化計画」の認定制度を設け、税制優遇や金融支援の加点といったインセンティブなどの施策を紹介した。吉田氏は「これらを活用しながら、自社だけでなくサプライチェーン全体を見据えたBCP策定を進めてほしい」と呼びかけた。
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