前回は、間違いだらけの「日本のBIMの常識」に潜む誤解の中で、「BIM」という言葉自体の意味や背景に改めて捉え直した。今回は、最近よくBIMの話題で俎上に載るようになってきた「EIR」「BEP」について、正しい定義と解釈を示したい。こうした用語はBIMの情報マネジメントで極めて重要な役割を担うが、日本ではその本質が正しく理解されていない。
EIR/BEPという用語は、BIMに取り組む中で耳にする機会が増えているだろう。EIR(日本では「発注者情報要件」と訳されることが多い)は発注者からのBIMに対する「要求事項」で、BEP(BIM実行計画)がBIMを利用した設計・施工のための「実行計画」だということは、おおむね間違いではない。
だが、前回述べたように、日本では「BIMとは、3次元の形状モデルに属性情報を持たせたBIMモデルを作成し、それを設計・施工に役立てるツールや仕組み」などと理解されている。そのため、日本でEIR/BEPといった用語は、BIMモデルの仕様を決めるための書類と考えられており、BIMソフトウェアに関する内容以外は考慮されていない。
しかし、EIR/BEPの本質は、国際規格に基づく「情報マネジメント用語」だ。これらは、BIMを使用する設計・施工のプロセスを明確に定義するための計画書で、BIMモデルの仕様を決めるための書類ではない。そのため、情報マネジメントとして、それぞれが何を意図しているかを理解しなければ、正しく運用できないとまでは認識されていない。
★連載バックナンバー:
『日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜』
日本の建設業界が、現状の「危機構造」を認識し、そこをどう乗り越えるのかという議論を始めなければならない。本連載では、伊藤久晴氏がその建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオを描いてゆく。
そもそも、日本でのEIRやBEPは一部の試行的な物件のみに適用され、実際には存在していない場合がほとんどだ。仮に存在していても、プロジェクトの関係者全員にその内容が伝えられることはあまりなく、発注組織と元請受託組織の形式的な書類の取り交わしにとどまっている。さらにEIRは発注組織の要望、BEPは元請受託組織の提案と受け止められているため、どのように実現できたかはほぼ問われない。
日本では、BIMを“属性を持った3次元モデルの作成や活用”とする間違った解釈から、EIRやBEPを下記のように認識していると考えられる。
EIR:発注組織によるBIMモデルの詳細度やBIMモデルによる納品物の仕様に関する要望書
BEP:受託組織によるBIMモデルの作成ルールや活用方法、工程や会議手法の提案書
日本ではEIRやBEPがあたかも「要望書」や「提案書」のように扱われ、それが達成されなくても大きな問題とならない。しかし、最終的には、受託(契約)文書の附属資料として取り扱い、実施を義務付けるべきだ。EIR/BEPといった用語は、BIMモデルの有無にかかわらず、図面/計算書/報告書/作業手順書などを含む、設計・施工全体の情報を対象とする情報マネジメントの枠組みに属し、建設プロジェクトの遂行で不可欠な基盤を成す。
こうした捉え方はいずれも、BIMを「3Dモデル」の管理や運用に限定するという誤解から派生したもので、BIMの本質となる「情報マネジメント(Information Management)」の視点が欠落しているために、国際規格や海外の常識とは様相を異にする。
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