国交省は、「施工」「データ連携」「施工管理」の3つのオートメーション化で、2040年度までに生産性1.5倍を掲げる施策「i-Construction 2.0」を進めている。筑波大学、土木研究所、九州大学、フジタらは、自動化が進んでいない「土工」を対象に、施工計画の作成から、掘削〜締固めの実施工までの一気通貫の革新的システムを構築した。このうち実施工では、メーカを限定しない複数建機の連携や建機を制御する信号の共通化で、土工の自動施工を実現した。
筑波大学、土木研究所、九州大学、フジタらは2025年8月28日、造成工事や道路工事の「掘削→積込→運搬→放土→敷き均し→締め固め」といった一般土工プロセスを対象に、複数建機を協調制御することで自動化した実証実験を茨城県つくば市にある土木研究所の「建設DX実験フィールド」で公開した。
今回の実証は、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期」のうち、インフラ維持管理の課題に対する「スマートインフラマネジメントシステムの構築」のサブ課題A「革新的な建設生産プロセスの構築」として実施した。
建設業界では、高齢化や人口減少の影響で深刻な人手不足が続いている。国土交通省は2024年4月、「i-Construction 2.0」を発表し、建設現場の自動化やデータ活用を進め、2040年度までに作業の人手を3割減らし、生産性を1.5倍に高めることを目指している。この流れを受け、大手ゼネコンや建設機械メーカーはロボットや情報技術を活用した建設現場の自動化を進めている。
しかし、造成工事や道路工事などでは自動化は進んでいない。また、これまでの自動施工の多くは、ゼネコン、システム企業、建機メーカーがチームを組んで独自開発しているため、技術情報が外部に公開されず、自動化の普及を妨げる一因となっていた。
一方、現場では地形や天候など日々異なる条件に応じて、現場監督が経験をもとに施工計画を立て、建機オペレーターは現場監督の意図をくみ取って柔軟に対応している。こうした人と人の意思疎通の部分をそのまま機械に置き換えるのは難しく、単純なICT建機での代替は困難とされてきた。
こうした課題を踏まえ、今回のプロジェクトで披露したプロトタイプシステムは、掘削→積込→運搬→放土→敷き均し→締め固めの一連の土工プロセスを細かく階層ごとに分け、「土工事の体系化」を進めた。目標は、監督者が作成した日々の施工計画に基づき、複数の自動建機を協調制御して施工の自動化を実現する「施工計画から自動施工までの一気通貫システム」の構築だ。
筑波大学 システム情報系 教授で研究開発責任者の永谷圭司氏は以前、自動建機の動作をゼネコン職員にみせると、「動作はできているが仕事ができてない」と言われたというエピソードを紹介した。
現在の研究は建機が自動で動くことだけにフォーカスしており、そうした環境を整えさえすれば、一見すると現場全体が上手く回っているようにみせることができてしまう。しかし現実には、その場で仕事するための段取り(作業指示)が8割を占め、建機を動かす部分は2割にすぎない。
プロジェクトでは、業務の8割を占める施工計画の作成をシステム化して効率化すべく、まず「複雑な土工も階層化した単純動作の組み合わせで実現できる」と仮定した。建機への作業指示となるタスクも、単純動作の組み合わせと数値のパラメーター設定で可能になると捉え直した。その結果、現場監督が建機に伝える動作指示を共通化した「情報流通インタフェース」を導入するに至った。
現場管理者は、建機の動作がタスクとして共通化されているので、掘削や運搬などのタスク群から、企業それぞれの動作システムを自由に組み合わせて、タスク列(掘削→運搬→放土などの作業手順)を生成。タスクの作業量となるパラメーターは、施工管理システム上で指定する。建機を制御するシステム企業にとっては、どの監督者が作った施工計画でも意図を理解せずに、タスクに応じてそのまま複数建機を協調制御できるため、これまでのように特定の企業グループに参画しなくてもよくなる。
公開実験では、土木研究所が提案する開発中の「共通制御信号」も活用した。共通の制御信号に対応した建機であれば、メーカーを問わず同じシステムで制御できる。
今回のプロトタイプシステムはオープン技術のため、広く活用されることで自動施工の技術開発の加速とともに、業界全体の参入障壁が下がることも期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.