“サウナと水風呂”で次の100年を拓く 前田建設 ICI総合センターの意義(前編)建設業の未来を創る技術拠点(1)(4/5 ページ)

» 2025年03月31日 15時00分 公開
[黒岩裕子BUILT]

長く評価され続ける建物の魅力を体感できる「ICIスタジオ」

 ICIスタジオは東京都港区白金台から移築した住宅「旧渡辺甚吉邸」と、見学後のコミュニケーションの場として新設した「W-ANNEX」で構成される。未来にフォーカスした他のエリアと異なり、ICIスタジオでは時を超えて評価され続ける建築の魅力を体感できる。

 旧渡辺甚吉邸は、実業家の渡辺甚吉氏が新婚生活のために建てた住宅で、竣工は1934年。日本の洋風住宅の先駆けとして15〜16世紀のイギリスで流行したチューダー様式を取り入れ、白い壁に木骨が露出した「ハーフティンバー」の外観が特徴だ。建築家の藤森照信氏が1975年頃に発見し、雑誌で紹介したことをきっかけに広く知られるようになった。

 実施設計は大日本土木の初代社長も務めた建築家の遠藤健三氏、全体計画は住宅作家の山本拙郎氏、細部装飾のデザインは「幻のデザイナー」とも呼ばれる今和次郎氏が手掛けた。今氏の実作は少ないが、旧渡辺甚吉邸にはスイッチプレートやラジエーターグリルなどの装飾が現存している。

「旧渡辺甚吉邸」外観 「旧渡辺甚吉邸」外観
藤森氏は入口の外灯を見てレベルの高い建築であると確信したという 旧渡辺甚吉邸を発見した藤森氏は、入口の外灯を見てレベルの高い建築であると確信したという

 旧渡辺甚吉邸は2016年に取り壊しの危機を迎えた。しかし、当時の最新設備や動線計画を兼ね備えた文化的にも芸術的にも貴重な建物であったことから、有識者が保存のための要望書をまとめた。前田建設がこれを受け入れ、2022年、ICI総合センター敷地内へ移築。2023年4月には、取手市初の国の登録有形文化財に指定されている。

 移設に当たっては、解体前に3Dスキャナーや360度カメラで元の建物のデータを記録。柱や瓦などの部材1つ1つに番号を取り付けてから解体した。移築後も9割は元の部材を利用し、解体時に破損した部材はレプリカを作成して復元した。

手彫りの細工が施された木材。梁のように見えるが、当時の職人にチューダー様式の知識がなく、在来工法で建設した後に装飾部材として貼り付けられていた
ALTALTALT 移築時に割れてしまった洗面所の泰山タイルは同じ産地の原料で復原。現在の技術でも同様の色味を再現するのが難しかったという。角を3方焼きにするなど細かなこだわりが見られる(左)、今和次郎氏がデザインしたスイッチのプレート(中央)、天井のレリーフは丸い模様が4つで1つのユニットになっていた。解体時には1セットずつ切り出した(右)
ALTALTALT 壁一面に木彫刻が施された重厚感のある応接室(左)、庭に面したサンルーム(中央)、ロココ様式の主寝室(右)
ALTALTALT 照明(左)、電話室(中央)、応接室の窓にはロール式網戸が採用されている(右)
ALTALTALT 入込(左)、食堂(中央)、吹き抜けホールの照明とステンドグラス(右)

 旧渡辺甚吉邸は年に4回、完全予約制で一般公開している。見学後に関連イベントを開催する施設として、隣接地にツバメアーキテクツが設計に関わった「W-ANNEX」が2022年3月に竣工した。

 主に120ミリ角の一般流通木材を用いた在来工法で架構を構築し、2階レベルに浮かせて、内部に柱のない吹き抜け空間を実現。「ネオ・ハーフティンバー」をテーマに、甚吉邸の意匠をを踏襲しつつ、国産木材と半透明のポリカーボネート外壁を組み合わせ、周囲との調和を図っている。

「W-ANNEX」外観 「W-ANNEX」 提供:前田建設工業

ICIスタジオ

旧渡辺甚吉邸移築復元工事

設計:前田建設工業一級建築士事務所

施工:前田建設工業 関東支店

構造:木造

規模:地上2階建て、棟屋(駐車場)1階

延べ床面積:426平方メートル

W-ANNEX

設計:前田建設工業一級建築士事務所、ツバメアーキテクツ、プレイスメディア(ランドスケープ)

施工:前田建設工業 関東支店

構造:木造/RC造/S増の混合造

規模:地上2階建て

延べ床面積:328平方メートル

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.