では、建設会社が業界特有の課題を踏まえたうえで従業員エンゲージメントを向上させるには、どのような取り組みを進めれば良いのでしょうか。
ここで大切なのは「課題を切り分け、施策を講じる」という考え方です。経営層や経営企画/人事部門などが主体となって解決を図るべき「全社課題」と、現場/事業所レベルで解決を図るべき「個別組織課題」に分けて、それぞれ対策を講じる必要があります。
例えば、経営層や経営企画が主導して全社一律の施策を進めても、現場ごとに異なる組織状態に対応しきれず、効果にばらつきが生じてしまいます。だからといって、人事部門などが個々の現場で起きている組織課題を1つ1つ解決していくのは、途方もない手間と時間がかかり非効率です。また、次から次へと生じる新たな課題にその都度対応していては、抜本的な対策につながらず「いたちごっこ」になってしまいます。
個々の現場の組織課題は、支店長や営業所長などの管理職が主体となって、現場ごとに解決を図っていくことが大切です。
さらに、「全社課題」と「個別組織課題」の両方を踏まえて全社のエンゲージメントを高めるには、支店長などの管理職の役割が重要になります。管理職を経営と現場をつなぐ「結節点」として機能させ、改善の中心を担ってもらうことで、経営と現場の距離を縮めることにつながります。
管理職の中には、技術的な能力や業務マネジメントができることを評価されて昇格したものの、「経営方針を分かりやすくかみ砕いて現場の従業員に伝える」という管理職として必要な能力を磨く機会がないまま、役職に就く人も人もいます。しかし、管理職が経営の意図や思いを現場の従業員に、そして従業員の意見を経営に伝えていかなければ、本社と現場の心理的な距離は広がったままです。
また、支店における階層別のエンゲージメントを見ると、支店長の部下である部長や課長クラスは低い傾向にあります。このため、部長/課長層が主体となって組織改善に取り組むにはややハードルが高く、まずは支店長を中心に、全体課題と組織個別課題の改善活動を進めていく必要があるのです。
前述の通り、全体課題は経営層や経営企画、人事部門が主体となって改善を進めますが、実際の施策が現場で適正に運用されていなければ効果が出ません。支店長が会社の方針をくみ取り、現場の従業員にかみ砕いて説明することで、浸透させていくことが重要です。
組織個別課題に対しても、支店の課題を洗い出し、部長層と連携しながら組織ごとに課題解決を図ることが求められます。ある程度、改善活動が軌道に乗ってきたら、次は部長層が主体となり、課長層と連携して改善活動を進めていきます。このように上位役職者から徐々に改善活動を進めていくことで、最終的に現場の従業員にも浸透し、全社のエンゲージメント向上につながっていくことが期待できます。
建設業界が2024年問題を乗り越えるためには、従業員エンゲージメントの向上が不可欠です。そのためには、建設業界特有の組織課題を理解し、支店長をはじめとする管理職が「結節点」としての機能を高め、改善していくことが重要です。次回からは、従業員エンゲージメントを高める具体的なポイントについてお伝えします。
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