掘進機の圧入により非開削で地中に管渠(かんきょ)を構築する推進工法では、地盤変状の推定が主要な管理項目となりますが、その判断には熟練者の技能が求められます。文献5は、下図のように施工記録やモニタリングの情報に基づき、定量的に判断する意思決定モデルを、現場での実証を通して構築しています。
定量的に把握する意思決定モデルで、実際の施工現場をモニタリングした結果から対策要否をスコア化したのが下図です。地質図を併せて確認することで、地盤構成ごとの管理ポイントを把握しています。このようにデジタルツインの活用で、ベテラン技能者の暗黙知で属人化していた経験的な判断を定量化する試みが進められています。
鋼構造物の補修や補強は、既設部材に当て板などの新規部材を追加したり、部材の交換をしたりするケースが多く見られます。その際、既設部材の詳細な形状や寸法の把握、搬入や運搬、取り付けの施工を詳細に検討するための現況を踏まえた3次元化が求められます。従来、こうした検討は、構造と施工方法の両方の知識や経験に基づき、2次元の図面と既設部材の組み合わせから3次元の構造を想像して行っています。
文献6では、既設部材を目の前にして新規部材の設置状況を事前に確認できる「AR(Augmented Reality)」を現場に適用しています。
下図のようにゲルバー構造部の支承取替えのため、ジャッキで仮受する際の仮設材をその下の図のように現場でAR表示しています。取り合いや干渉、施工の詳細な検討が可能となります。
工事現場で施工データを集約し、利用者が可視化された情報を利用したり、デジタルツインによる工程管理や建機などを制御したりする研究も始まっています。文献7ではサイバー空間内にモデリングして、対象世界の最適制御を目指す「CPS(Cyber Physical System)」※8という概念を取り入れた「CPS 施工管理システム」を提案しています。
※8 「デジタルツインの概念と土木工学への応用」杉崎光一,全邦釘,阿部雅人/AI・データサイエンス論文集4巻2号p13-20/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年
下図のように、人や車両に取り付けたセンサーで取得した位置情報をデジタルツイン上に再現し、稼働する重機や車両、現場内で作業している人の位置を遠隔地からでもリアルタイムに把握することが実現します。現場の施工管理や安全管理への活用、実績情報に基づいた労務管理や支払いなどにも活用が期待されます。
今回は、工事現場のデジタルツインやDXの取り組みを紹介しました。例えば、文献2の高リスク行動を検知するAIを、文献7のデジタルツインを組み合わせれば、リアルタイムに安全性の評価が可能になります。このように現場DXには、デジタルツインやAIは欠かせない技術となるでしょう。
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