前述のように、2024年問題への対応が思うように進まないと、本社から「残業時間が全然減らないじゃないか!」「現場長は一体何をやっているんだ!」と、所長や現場の従業員が責任を追及されることがあるかもしれません。
しかし、問題の本質は「人」ではありません。ノー残業デーが裏目に出るのも、DXツールが定着しないのも、ほとんどの場合、問題は「本社と現場の相互理解が不足していること」にあるからです。
組織の問題を考える際には大前提として、問題は「人」に起きるのではなく、人と人との「間」に起きると捉えることが重要です。現場の従業員は目の前の仕事に全力で向き合っており、本社も必死に会社の成長やさまざまな規制への対応に尽力しています。
それでもなお、本社と現場には距離があるため、視点にズレが生じてしまう場合があります。視点を合わせるためには、本社と現場の相互理解が不可欠であり、相互理解ができて初めて、経営による戦略/施策の意図が現場に伝わり、実行されるようになるのです。
では、どのように現場の従業員と相互理解を深めていけば良いのでしょうか。最大のポイントが、「従業員エンゲージメント」という概念です。
従業員エンゲージメントは、会社と従業員の相互理解や相思相愛の度合いを表すものです。昨今、従業員エンゲージメントを重視する企業が増えていますが、これは、従業員エンゲージメントが経営にポジティブな影響を及ぼすことが認識されているからです。
リンクアンドモチベーションの調査でも、従業員エンゲージメントが向上することで、労働生産性の向上、営業利益率の向上、ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)、PBR(株価純資産倍率)の向上、また退職率の低下に寄与することが明らかになっています。
当社では、従業員エンゲージメント向上クラウドサービス「モチベーションクラウド」で企業の変革を支援しており、国内最大級のデータベースを保持しています。累計1万1890社、442万人のデータから分かる「従業員エンゲージメントが高い組織と低い組織の違い」をご紹介します。
【従業員エンゲージメントが高い組織「囁けば伝わる組織」】
経営や上司の指示待ちではなく、従業員が自ら考え、目標達成に向けて自律的に動いています。
【従業員エンゲージメントが中程度の組織「打てば響く組織」】
従業員が自律的に動くことは少ないものの、経営や上司から受けた指示は、しっかりと遂行しようとします。
【従業員エンゲージメントが低い組織「笛吹けど踊らない組織」】
経営や上司に対して不満を口にすることは少ないものの、従業員同士の飲み会などでは、会社や上司に対する愚痴が横行しています。
従業員エンゲージメントが低い組織では、経営が優れた戦略を打ち出しても、従業員は「本社がまた何か言っているな」と感じるだけで、「人ごと」の域を出ません。「どうせ何も変わらないだろう」といった諦めがまん延し、「なぜ新しいことをする必要があるんだ」といった不満につながります。
一方、従業員エンゲージメントが高い組織では、従業員は「新しい取り組みは自分にとってチャンスになる」「難しそうだけどチャレンジしてみよう」というように「自分事」としてポジティブに受け止めます。
言うまでもありませんが、戦略の「実行力」が高いのは従業員エンゲージメントが高い組織です。経営が打ち出した戦略を実行に移すのは現場の従業員であり、どれだけ優れた戦略を描いても、従業員がそれに共感し、「やりたい」「やるべきだ」と思わなければ、戦略は実行されません。この共感を生み出す源になるのが、従業員エンゲージメントなのです。
建設会社が2024年問題への対応を迫られる昨今、労働時間の削減とともに成果を下げるか、生産性向上により持続的に成長していけるかどうかは、従業員エンゲージメント次第だと言っても過言ではありません。次回は、従業員エンゲージメントサーベイの結果から見えてきた建設業特有の課題と、その解決策についてお伝えします。
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