建物ライフサイクルマネジメントの基盤となる、NTTファシリティーズの「現況BIM」【BIM×FM第2回】BIM×FMで本格化する建設生産プロセス変革(2)(2/2 ページ)

» 2024年06月25日 10時00分 公開
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管理運営や事業の情報を加えたデジタルツイン「現況BIM」の必要性

 新たに建設してから最終的に撤去するまで建物を長期間管理し、目的に応じて機能を維持、または変更する建物ライフサイクルマネジメントでは、さまざまな立場や業務で共有、活用、流通できる建物情報を整備する必要がある。建物を情報化/データ化する場合、形状や空間を表す図面と建物や設備の性能諸元を表す文字数値データが必要となるが、データを統合して連携し、一元的に扱える点でBIMモデルは有効となる。

 NTTファシリティーズではBIMモデルを新築時のみに利用するのではなく、建物を使い始めてから継続的に活用可能な建物情報として、「現況BIM」を整備して運用している。現況BIMは、既存建物を対象とする現状把握や維持管理のための建物の状況を表すものであり、模様替えや改修、大規模修繕といった工事で設計の元情報となる。

 また、建物運営時のスペース情報、部位や機器の配置情報の利用、情報通信事業での通信機器やオフィス・ワークプレースの整備計画の基本情報としても用いられる。

 そのため、現況BIMは新築時の竣工BIMをそのまま移行するのではなく、建物の管理運営や事業に関する情報を付加したデジタルツインと位置付けられる。情報通信施設を対象とした多施設の建物ライフサイクルマネジメントでは、通信事業に基づく資産情報要求事項と既存建物の工事で求められるプロジェクト情報要求事項を考慮し、中程度のLOD(Level of Detail)と比較的詳細なLOI(Level of Information)を組み合わせた現況BIMを整備している。1万近い情報通信施設は、規模の大小や情報通信事業での重要度、工事による変更の頻度が異なるものが混在する。そのため、現況BIMの整備で状況に応じたグルーピングを行い、LOD/LOIのクラス分けや整備の優先度設定を行っている。

建物ライフサイクルマネジメントでの現況BIMの活用と継続的な維持

 常に建物と同じ状態を保持する現況BIMを、建物の共有基盤情報として整備することで、建物ライフサイクルマネジメントの各工程や業務の情報管理や参照コストの低減が可能となる。建物や設備の定期点検や故障/苦情の対応時、現況BIMから生成される各種図面と性能諸元データが建物の参照情報となるからだ。

 また、既存建物に対する模様替えや改修、大規模修繕では、事前の現場調査や基本検討で、建物の空間構成や部位/機器の状況とスペックを把握できる。さらに工事に向け、設計を実施する際は、現況BIMを設計BIMの元データとして利用することで、設計情報の作成が効率化し、短期間化もする。

 建築領域を超えた通信事業では、各スペースの種類や面積などの集計により、清掃や維持管理のランニングコスト算定、固定資産税や事業所税の算定、情報通信事業での通信機器の配置計画や電源/空調容量の妥当性検討の基盤情報など、さまざまな用途に建物情報を活用している。

 近年増加している異常気象や大地震による災害発生時、多数の情報通信施設の状況把握と対応を組織的に行う場合にも、現況BIMは重要な建物情報として参照される。ある機器が不具合を起こした際には、同型の装置や設備が設置されている建物と設置箇所を全て特定し、早急な手当てが必要になる。こうしたとき、大量施設の現況BIMをデータベースとして利用できるようにしておくことで、対象装置や設備の円滑な抽出が可能となる。

 多角的に利用される建物情報としての現況BIMは、常に建物の状態と同期する現行性と信頼性の確保が重要な課題となる。そのためには、大量の情報通信施設を対象とした現況BIMの均質化と継続的な更新による現行化が必須となる。

現況BIMの整備と活用 現況BIMの整備と活用 筆者作成

 現況BIMは、情報通信建物の現在の状態を表す建物情報として存在し、点検に加え故障や苦情の対応といった維持管理、スペース管理や固定資産管理といった建物運営で利用する。また、整備計画に基づく模様替えや改修の設計BIM作成のもととなる情報としても、活用し、工事によって変更されたものを現況BIMに、反映することで、継続的に利用できる。

 NTTファシリティーズでは現況BIMの整備と継続的な活用を実現するため、建物情報の管理組織を設置するとともに、情報通信施設の視点から現況BIMの構築規約を制定し、建物に変更が加えられた際、その情報がどのように伝わり、どのように現況BIMに反映をさせるかといった業務フロー/データフローに基づき、現況BIMを活用している。同時に通信事業を展開するNTTグループ各社にも、情報通信施設の情報を提供し、活用にもつなげている。

 本来、建物情報は、設計監理や維持管理といった建物サービス側だけで共有されるものではなく、事業ツールやCRE/PREや経営資源としても、基盤情報として建物オーナーやユーザーとも共有すべきものだ。今後は、こうした多角的な視点から建物を捉え、活用する建物情報とそのマネジメント手法として、BIM(Building Information Modeling)からFIM(Facility Information Management)へ概念を拡張する必要がある。

著者Profile

松岡 辰郎/Taturou Matuoka

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 エンジニアリング部門 設計情報管理センタ。

1989年日本電信電話(NTT) 建築部入社。1992年のNTTファシリティーズ創立以降、研究開発組織で設計業務、FM業務の情報化/情報管理/分析手法の研究およびFM支援システムの開発に従事する。

2008年にBIMの存在を知り、同年日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)の米国調査(テーマ:BIM/LEED)に参加。GSAやSOMなど米国の組織的なBIMの導入や活用状況について調査/分析を行う。以後、FMにおけるBIM導入/活用をテーマに取り組む。2013年には「NTTファシリティーズ新大橋ビル」で、国内最初期の新築からFMへのBIM連携を実施。2017年から現所属組織で、大量の情報通信施設を対象とした建物ライフサイクルマネジメントのBIM導入や活用を推進している。

一級建築士、認定ファシリティマネジャー、技術士(情報工学部門)。

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