第二部では人材紹介事業部 企画部部長 建部壮氏が登壇し、建設転職市場のトレンドを解説した。
建部氏は、「建設業界の転職市場では求人数が過去最高レベルにあり、採用活動は旺盛な状況にある。求職者側は、現在の仕事で抱える労働環境や年収アップなどのニーズをかなえやすく、企業目線では少ないパイの取り合いで、人材獲得競争はさらに激化が予測される」と転職市場を俯瞰する。
建設業界で求人が増える背景には、2024年問題への対応が挙げられる。月45時間/年360時間の上限規制が建設業にも適用されるため、企業間では人員補充や働き方改革に向けた動きが強まっている。こうした取り組みが追い風となり、今後もさらなる売り手市場や求人の好条件化が進むと予想する。
建部氏は、建設技術者が転職活動を始めた理由について、2023年度上半期の状況を「給与改善、勤務地、キャリアアップの順に転職理由は続き、特に給与改善は例年より増加して今回でトップになった」と転職動向の変化を解説する。
こうした要因は、物価上昇で大手企業を中心とするベアの動きが活発化し、現状の給与への不満が高まっていることが影響している。さらに、コロナ禍を経て家庭の事情などでIターンやUターン希望者が増加したり、DXの浸透で新たなスキルを求める人材が増えたりしたと分析する。
建部氏は解決策として、「求職者を増やすためには、勤務地限定職の待遇改善や在宅勤務の体制整備、“リスキリング体制”の強化が必要だ」と訴える。
ただ、リスキリングは一般的に企業にとって諸刃(もろは)の剣となるケースが多い。デジタルスキルを身につけると、自社に重要な人材となる一方で、優秀な人材は昇級や昇格などで成果をきちんと担保していなければ、すぐに流出してしまう。
人材流出の可能性が高まっていることを受け、自身の転職支援の経験から転職を考え出すきっかけとなるのは、「給与、やりがい、働く仲間の3つある要素のうち、2つのバランスが崩れると転職を考え出す可能性が高い」と分析し、「企業が給与を上げづらくとも、まずは心理的安全性を確保した職場づくりを行っていくことが大切だ。将来は、少しずつ昇級を検討するのが得策だろう」とアドバイスする。
建部氏は、転職者の採用に成功している企業の共通点も説明した。まず、求人段階ではシニア層(56〜65歳)の人材採用に積極的なことを挙げる。これまでの経験職種などによっても異なるが、そうした層に対して、年収800万円程度までの条件を掲示できる場合には、実績が出ている。定年退職後にも、待遇維持を求めて転職を検討する層も一定数いるため、シニア層まで視野に入れた企業は、人材確保では欠かせない。
他社との差別化や特徴が明確な企業も、転職者獲得には有利に働く。あるエリアでの公共工事実績ナンバーワンであったり、直近3年間の定着率90%以上であったりと数字で独自性をアピールできる企業は、転職者からの引き合いが強い。建設事業だけでなく、不動産開発事業を手掛けるなど、建設事業以外の分野でも活躍する企業も人気が高い。こうした点を踏まえ、「採用活動では他社に打ち勝つ要素をPRすべし」とアドバイスする。
その他にも、年間休日120日以上を明記や勤務エリアが限定的などの労働環境面への配慮も、求職者の獲得につながる。
続けて、建部氏は、選考面での具体的な手法もレクチャー。人材紹介会社の活用が前提となるアドバイスではあるが、相互のコミュニケーションが円滑な点は大きなメリットとなる。連絡が密であれば、エージェントがその会社のことを深く理解し、求職者に対する企業紹介で具体的に説明できるとともに、提案の心理的ハードルも低くなるため、選考をより多くの人に受けてもらえる可能性が高まる。
他にも、Web面接の導入、書類選考や面接での応募者への結果通知までの時間短縮などで、選考期間を短縮することも必要と訴え、「建設業界の技術者は引く手数多の環境にある。自社に導くためには、一日も早く採用を決めるべき」と結論づけた。
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