ただ、近年の衛星打ち上げ数は、指数関数的に増加しています(下図)※4。そのため、複数の衛星を連携(「コンステレーション」と言います)させて、データを取得することで、災害時のタイムリーかつ高頻度な計測が実現されつつあります※3。
また、通常の可視画像のみではなく、合成開口レーダ(SAR)を搭載した衛星であれば、曇天や夜間でも、地表のデータが得られます。このように、衛星の有効活用で欲しいときに欲しい地点のデータを取得可能な環境は整いつつあります。
※4 「衛星によるインフラマネジメント」阿部雅人,全邦釘/AI・データサイエンス論文集4巻L1号p1-2/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年
衛星SARで取得したデータは、最近では、地表の沈下や構造物の変形などの計測にも利用されています※5。例えば、下図左のような方法で、2回の計測の差から、その間の変形を求められます。右図は、広域の地盤沈下や隆起を計測したケースです。地盤のみならず、インフラ構造物の変形計測も進められており、橋梁(きょうりょう)が崩落事故を起こすときの異常な変形を、衛星SARの計測データから検出した事例も報告されています※6、7。
※5 「合成開口レーダ衛星データを用いたJAXAにおけるインフラ監視」冨井直弥/AI・データサイエンス論文集4巻L1号p3-8/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年
※6 New Method Can Spot Failing Infrastructure from Space.NASA(Jul 9,2019)
衛星の他の活用方法としては、「GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)による測位」が、建設現場にも幅広く取り入れられつつあります。文献8の「GNSS変位観測に基づく鋼連続トラス橋の日変動リアルタイムトレンド推定」では、インフラマネジメントへの適用を目的として、GNSSを利用した橋の長期的なモニタリングが行われています。下図のトラス橋では、G-1〜G-5で示した点で、GNSSを利用して変位を計測しています。
長期モニタリングの対象となったトラス橋の橋軸方向での変位を計測した結果が下図です。構造的にP2が固定支点で、他の支点が可動となっているため、P2から離れるほど変位が大きくなると予想されましたが、計測結果でもその傾向が表れています。さらに、温度変化に伴う橋の伸び縮みを反映していると思われる周期的な変形もみられます。文献8では、温度変化による変動に加え、長期的な変動を採り入れた学習を行い、変形の推定も試みられています。推定された常時の挙動と異なる変形が発生した際は、何らかの異常が発生していると判断できるわけです。
地震や台風、集中豪雨といった自然災害に伴い、突発的な斜面崩壊が発生することがあります。そこで、斜面の状態を常時監視することも試行されており、GNSSによる斜面のモニタリングも研究されています※9。下図は、2018年6月18日に起きた「大阪府北部地震」の前後で、斜面の変形が検出されている例です。
遠隔から広域の情報を取得することができる衛星は、インフラのマネジメントや防災を革新する技術として極めて有望です。今後、衛星の数がますます増加していくことが予想されており、計測の頻度や精度の飛躍的な向上が期待されています。
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