準天頂衛星システム「みちびき」測位技術のダム工事への適用性を実証、西松建設導入事例

西松建設は、熊本県南阿蘇村にある立野ダムで、準天頂衛星システム「みちびき」の高精度測位情報をダム工事に活用する実証実験を行った。実証実験では、ケーブルクレーンやその他建設機械の位置情報取得でCLASの有効性が判明した。今後は、他の用途を含めてCLASの活用について検討していく。

» 2022年12月27日 09時00分 公開
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 西松建設は、熊本県南阿蘇村にある立野ダムで、準天頂衛星システム「みちびき」の高精度測位情報をダム工事に活用する実証実験を2021年11月28日〜12月13日まで行ったことを2022年12月22日に発表した。

RTK測位との計測値差は水平精度は約4センチで垂直精度は約9センチ

 内閣府と準天頂衛星システムサービスでは、みちびきの利用が期待される新たなサービスと技術の実用化を推進している。

 こういった取り組みの一環として行われた今回の実証実験では、西松建設が参画するJVが熊本県で施工中の立野ダムで、通信環境が不安定な状況での作業を効率化するために、谷でも受信しやすい準天頂衛星を活用し、CLAS※1の実用性について調べた。さらに、ケーブルクレーンの材料運搬で、吊り荷(コンクリートバケット)の高精度測位を達成することを目標に掲げた。

※1 CLAS:Centimeter Level Augmentation Serviceの略称で、センチメータ級測位補強サービスで、みちびきから送信されるL6D信号を使用した測位。

ケーブルクレーンによるダムコンクリート打設 出典:西松建設プレスリリース

 具体的には、吊り荷上部のフックブロックにGNSSアンテナと受信機を設置し、CLASでのFIX率と測位精度を確認した。ちなみに、周囲の地形により河床付近では、仰角が平均35度程度と衛星の可視性が制限されていたため、計測範囲の評価は遮蔽(しゃへい)の影響を考慮し、ダム天端(標高282メートル)を境として、堤体上部と下部に分類し、統計処理を実施した。

評価基準のイメージ 出典:西松建設プレスリリース

 その結果、ダムの最深部(河床近く)にフックブロックを下した状態でも、CLASのFIX状況や測位精度が劣化することなく、FIX率が高い状態を保てていることを確かめた。このことから、従来のRTK測位に代わって、コンクリートバケットの自動運搬制御などで、ダム建設工事でCLASが使えることが分かった。

 なお、ダムの最深部(河床近く)にフックブロックを下した状態でも、上空でFIXしている状態であれば、衛星数が減少してもFIXステータスが維持されることが判明した。ちなみに、レファレンスとしたRTK測位との計測値差は、水平精度は約4センチで、垂直精度は約9センチ(FIX率は約98%)となっており、ダム天端を境として上下に分けても大きな差異は見られなかった。

作業日ごとの測位精度・FIX率・衛星数の状態 出典:西松建設プレスリリース

 FIX率と測位精度に関しては、みちびきを活用したCLASのダム工事への適用性をチェックした。また、西松建設が開発し現場運用を進めているケーブルクレーン自動運転システムでは、これまでRTK測位を使用していたが、CLASを使用することで、RTK測位で用いられる基準局の配置が不要となり、基準局からの補正情報を常時受信する必要がなくなる。

実証実験の概要

 実施期間は2021年11月28日〜2021年12月13日で、実施場所は立野ダム建設工事現場。計測機器はAQLOC-V(IS-QZSS-L6-004対応のCLAS)で、レファレンスはRTK測位(上記の受信機と、近傍の電子基準点との間でRTK測位演算を実施)。評価条件は、レファレンス、CLASでFIX解が得られたデータを比較評価。実施主体は準天頂衛星システムサービス。

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