アドビ 代表取締役社長の神谷知信氏は事業戦略説明会で、「2022年度の第2四半期にあたる今期は、収益43億9000万ドルを達成し、前年同期比で15%増となった」と発表した。ゲストに招いたAdobe Advisory Boardを務める経済学者の竹中平蔵氏とともに、今の日本社会が抱えているデジタル課題を採り上げながら、アドビの提供している3つのクラウドサービスと関連付け、今後期待している企業のDXについての展望を示した。
「『心、おどる、デジタル』のさらなる実現を目指す」、アドビが2021年6月に掲げた新しい事業方針だ。1年が経過した2022年6月30日には事業戦略説明会を開催し、社長就任から1年となる神谷知信氏が堅調に伸びている業績推移を報告した。「アドビは、2022年3月で設立30周年を迎え、収益は前年同期比で15%増と右肩上がりに推移している。当社の強みは、デジタルコンテンツの制作ノウハウと、そのデータを駆使した顧客体験サービスにある」。
その具体的なツールとして挙げたのが、「Adobe Creative Cloud」「Creative Document Cloud」「Adobe Experience Cloud」の3つ。それぞれ、デザインソフトを提供するクリエイティブ領域、電子書類などを管理するドキュメント領域、一人一人に最適な顧客体験を提供するソリューション領域に分かれる。どのサービスも、2020年から2021年にかけて収益を20%以上も増加させており、今後も大きな成長が見込める分野だとみている。さらに「2024年には2050億ドル以上の市場規模を予測している」と神谷氏は意気込む。
説明会の中盤には、経済学者であり、Adobe Advisory Boardのメンバーでもある竹中平蔵氏が登壇した。Adobe Advisory Boardとは、デジタルトランスフォーメーションに取り組む企業の支援をさらに加速させるために、同社が設置するグローバルの顧問評議会。金融、小売、自動車、ホスピタリティなど、各業界で多大な実績を残した社外有識者を世界各国から招聘し、メンバーを選出している。
竹中氏は、日本のデジタル化を阻む、「デジタルエコノミーの推進」「デジタルトラストの実現」「デジタル人材の育成」といった3つの課題を掲げた。デジタルエコノミーは、デジタル技術をベースとした“社会経済”の在り方を示す言葉。デジタルトラストは、組織がデジタルデータを管理する上での“信頼度”を指す。
竹中氏によると、いずれもデジタル社会の形成には必要不可欠な要素でありながら、いまだ国内では十分に浸透していると言い切れない状態だという。「デジタル化が加速していくなか、重要なデータや個人情報の漏洩(ろうえい)リスクは一昔前とは比べものにならないくらいに高まっている。デジタルを担う組織は、セキュリティを確実に守るのはもとより、顧客に安心感を与えられるだけの信頼、つまりはデジタルトラストを構築する義務がある」。
そのうえで竹中氏は、「システムをつくる姿勢ももちろん大切。しかし、顧客体験によってテクノロジーによる利便性を実感してもらい、ユーザーそのものを増やしていく活動こそが最も重要」と話す。それがゆくゆくは企業の信頼感を高め、デジタルエコノミーの浸透にもつながるのだと力説する。
そして、一番難しい課題として挙げたのが、「デジタル人材の育成」だ。デジタルに限らず、人材不足は世界的な問題となっている。日本政府は2022年4月、デジタルに不慣れな人々を支援する「デジタル推進委員」を全国各地に配置していくと発表し、既に地方を中心に年内での達成を目標に動き始めている。こうした国と企業が一体になった早急な働きかけこそ必要だと竹中氏は強調する。
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