続いて天沼氏は、コンセプトの1つ、「MANAGEMENT:管理の半分は遠隔で」を採り上げ、その実現のための取り組みを説明した。
建設現場では何を遠隔管理すべきか。天沼氏は、「ヒト」「資機材」「工事車両」の3つを挙げ、その理由を次のように述べた。
「ヒト」を遠隔管理する要因は、少人数で現場を効率的に管理するため。一例として天沼氏は、若手社員の仕事を重要度と緊急度の軸でプロットした散布図を提示しながら、「緊急度は高いが重要度は低い現場対応業務と、緊急度は低いが重要度の高い計画作業に分かれる」と分析。そのうえで、「遠隔管理で現場対応業務の負担を軽減できれば、施工計画や図面の確認、工程の作成などの計画作業に集中できる」との持論を述べた。
「資機材」の遠隔管理では、資機材を探す時間やレンタル費用の削減が見込まれる。レンタルする資機材は、1現場あたりで数千台に及ぶこともあり、大規模な現場では使用したい機材を探すだけで多くの時間が割かれてしまっている。
当然ながら、レンタル費用も膨大となり、鹿島建設では、作業台や台車などの資機材を自社でレンタルし、協力会社に貸し出している。高所作業車の場合は、レンタル費用は月額10〜15万円程度掛かるが、大規模現場では導入台数が数百台に達し、コストを押し上げている。
また、レンタル機材を無くしてしまうリスクもある。機材は通常、竣工時にまとめてレンタル会社に返却するが、そのタイミングでしばしば機材の紛失が発覚する。大規模な現場では、紛失補填(ほてん)のために、数千万円を支払うこともままあり、機器の個体管理は急務だった。そのため、資機材を遠隔管理することはこれらの課題解決につながると、天沼氏は見込む。
「工事車両」を管理対象にするのは、待ち時間の削減やストレス軽減といった労働環境の改善に成り得る可能性があるからだ。
工事現場には多くの工事車両が入退場するため、効率よく管理することが求められる。コンクリート打設現場を例にとれば、若手社員が打設管理業務を担う機会が多く、「トラックミキサ車両がいつ現場に到着するか、何台現場に来たかなど、車両管理に神経を使っている場面をよく目にする」(天沼氏)。遠隔で俯瞰的に管理できれば、ストレスなく、効率よく現場を動かせるようになるというわけだ。
では、どうやって建設現場の遠隔管理を実現すればいいのか。鹿島建設はその答えとして、2019年にアジアクエスト、マルティスープとともにリアルタイム現場管理システム「3D K-Field」を共同開発した。
3D K-Fieldのプロダクトコンセプトは、「建物の可視化プラットフォームで、さまざまなIoT情報を業務に重ね合わせ、デジタルツインを実現する」こと。建設現場の対象物にIoTセンサーを取り付けて収集した位置情報や作業員の状態といったバイタル情報を、BIMモデルを活用した仮想空間にリアルタイムで再構築し、現実世界をデジタルツインで可視化するシステムだ。
天沼氏は、3D K-Fieldでデータを加工して3D表示することで、「遊休機材を特定してレンタル数を最適化したり、人の移動履歴を閲覧したり、ヒートマップ表示でパトロール範囲を可視化したりすることにも役立てられる」とする。
3D K-Fieldに集約できるデータは、人や資機材の位置情報や稼働率、作業員のバイタルデータ、天候情報気象データ、監視カメラ映像などがある。さまざまなシステムからデータを収集し一元的に管理できるのが、3D K-Fieldの特長だ。
建築工事が進むと屋内作業がメインとなり、一般的に利用されるGPS(Global Positioning System)の活用は困難になってしまう。そこで、“屋内”の人や資機材の位置情報の取得には、ビーコン測位技術を採用。人の位置情報は、携帯したBLEビーコンか、それに代わるアプリをインストールしたスマートフォンで測定。一方で資機材の位置情報は、機材に合わせて選定し、取り付けたビーコンかセンサーで取得。現場には、ビーコンやセンサーから発する電波を受信するためのゲートウェイ(受信機)を配置して、3点測位で位置を推定する仕組みだ。
一方で、“屋外”のヒト・モノの動きは、主にクルマの位置を把握することを目的に、GPSで測位を行う。また、機材の稼働状況については、各種センサーを活用し、高所作業車であれば、作業台下部にマグネットセンサーを取り付け、作業台の上下動のデータを収集して、稼働/未稼働を判断する材料とする。現場作業員のバイタルデータは、一般で使用されている健康管理用のウェアラブルデバイスからデータを取り込む。さらに、監視カメラ映像は、クラウド録画サービスから、API経由で3D K-Fieldに画面を埋め込む。
鹿島建設は、3D K-Fieldで収集したデータを蓄積・管理・公開するためのデータマネジメント基盤の構築も進めている。天沼氏は、「蓄積したデータを、社内の分析者だけでなく、社外の分析者やシステム向けに公開する」と説明した。
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