鹿島建設は、造成工事などの土木工事で発生する法面緑化工事の品質管理を高度化するために、ドローンによる空撮画像を用いて植被率を定量的に測定し、緑化の成否を評価する技術を開発した。同社は、茨城県北茨城市で施工を進める「磯原太陽光発電北茨城メガソーラー建設工事」における法面緑化工事に適用し、有効性を確認した。新技術の適用により、大規模な法面に対しても定量的に植被率分布を評価できるため、発注者と施工者間の緑化成立に関する認識のずれがなくなり、手戻り工事や緑化不成立に伴う不具合などの大幅な低減が可能となることも分かった。
鹿島建設は、岩手大学と東京農業大学と共同で、造成工事などの土木工事で発生する法面緑化工事の品質管理を高度化するために、ドローンによる空撮画像を用いて植被率※1を定量的に測定し、緑化の成否を評価する技術を開発したことを2022年5月25日に発表した。
※1 植被率:単位面積あたりに植物が覆っている割合を示した数値を指す。
法面緑化の評価は、通常の基準として、植被率70〜80%以上の目標数値が示されている。しかし、これまで植被率の評価は、検査員による目視で判定されており、定量的な植被率の算出方法は定められていなかった。
そのため、検査員の目視で判定した植被率は、定性的で個人差を多く含むケースがあり、発注者と施工者の間に植被率の測定結果に対する認識のずれが生じやすく、手戻り工事が増えたり、生育不良箇所の見逃しにより、法面表層に雨水浸食などの不具合が発生する可能性があった。一方、目視による広範囲の調査には労力を要することも課題だった。
緑化の成否を評価する技術は、ドローンで空撮したマルチスペクトル画像(複数の波長帯の反射率を記録した画像)から植物の活性度を示すNDVI※2値を算出し、分布図から法面緑化の植被率を定量的に測れ、緑化工の品質管理が行える。
※2 NDVI:Normalized Difference Vegetation Indexの略称で、正規化植生指数、植物の光合成の活性度を表す指数。
新たな技術による法面緑化状況の評価手順は、まず、マルチスペクトルセンサーカメラ(近赤外線を含む4〜5つの波長帯の反射率を記録するカメラ)を搭載したドローンで、対象法面を撮りマルチスペクトル画像を取得する。
次に、複数のマルチスペクトル画像を合成し、可視赤光と近赤外域光の反射率から対象法面のNDVI分布図を作成。さらに、NDVIの1メートルメッシュ当たりの集計値を、鹿島建設が独自に開発した植被率評価モデルに入力することで、測定対象範囲の植被率を面的かつ定量的に測定・評価が行える。
続けて、植被率評価モデルで算出した植被率の測定結果を可視化し、法面緑化状況の定量評価・検査(成績判定)を実施する。
具体的には、緑化成立状況を定量的に測定・評価するため、熟練検査員でなくても、客観性を担保した適切な判定が行え、非効率な従来手法に比べ、一度に広範囲の緑化状況把握と可否判定を実現するため、検査にかかる労力と時間を減らせる。
加えて、現場での作業はドローン撮影とGCP(地上基準点)の設置・測量のみとなり、現場作業が少なくなる他、法面の高所や傾斜地での作業を低減することで、作業の安全性アップが見込める。
また、緑化工事施工後も法面状態を簡便に把握するため、緑化成立が遅れている部分を事前に確認し、集中的な養生管理をすることで、手直し工事などを低減して、より高い品質を確保し、工事完了後の緑化状況モニタリングを通じて、維持管理段階での適用にも応じる。
なお、今回の技術は、国土交通省が展開している2021年度のPRISM事業に採択され、鹿島建設、ジェピコ、岩手大学、東京農業大学で結成したコンソーシアムで、技術の有用性を確認・検証するとともに、測定結果に基づいた緑化検査の遠隔臨場を試行した。
今後は、開発した技術をベースに、汎用性や簡便性、精度を向上させ、法面など緑化工事における品質管理の高度化と手直し工事の手間をカットすることで、発注者と施工者が共通認識の下で判定できるシステムとして標準ツールに発展させていく。
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