送電線の建設と点検に従事するラインマンの数は、全国で約1万人に上るが、そのうち、鉄塔に登って作業する人は約5700人で、電線に乗り出して作業する人は約3200人にとどまり、業界では人材不足が問題となっている。解決策として、ETSホールディングスは、新入社員の研修や労働環境の改善に注力している。
世界中の政府とさまざまな企業は、カーボンゼロ達成に向けた動きを活発化しており、日本でも洋上風力や太陽光といった再生エネルギーの導入拡大が進む中、発電された電気を必要な場所に安定的に届けるための鉄塔と送電線の整備は重要性を増している。
国内の鉄塔と送電線の多くは、高度経済成長期に建てられ、平均耐用年数は50〜60年とされているため、送電線設備の点検と建て替え工事も急務。しかし、現在、送電線の建設・保守を担うラインマン※1の人手不足と高齢化が深刻化している。
※1 ラインマン:送電線(鉄塔と電線)の建設と点検を扱う工事に従事する作業員
送電線工事を展開するETSホールディングスが、全国で20〜50代の男女844人を対象にラインマンについて2021年8月31日〜9月2日にインターネットで調査した結果、「ラインマンという職業を知っている」と答えた人は全体の15.2%しかおらず認知度が低いことも判明した。
ラインマンを取り巻く現状を踏まえ、電気設備業界の課題や社内での人材育成法、今後の見通しについて、ETSホールディングス 東北送電事業本部長 千葉仁氏と電工現業部長 外崎喜行氏に聞いた。
――ラインマン業界の課題とは?
外崎氏 いま当社で抱えている悩みは入職者の減少と新入社員の早期退職による人手不足だ。例えば、東北送電事業部の理想とする体制としては、30人のラインマンを所属させ、15人単位で2チームを編成することで、東北電力が管理する東北6県※2の鉄塔と電線の建設および点検を網羅することだが、現在は15人で構成される1チームのみしかいない。
※2 東北6県:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県。
人手不足の要因となっている新入社員の早期退職は、ラインマンのワークスタイルが関係している。具体的には、東北送電事業部では通年で、送電線工事を行うさまざまなエリアにある旅館や民宿、宿舎にラインマンが着工から竣工まで泊まるが、旅館と民宿は客室数に限りがあり、2〜3人が1つの部屋に宿泊するため、プライベートな時間を確保しにくく、これが嫌厭されて、新入社員の離職につながることが少なくない。
一般的に送電線工事は、小規模で数週間、中規模なものなら3〜4カ月間、大規模案件では1年間もの期間を要する。そのため、社員には休日に宮城県仙台市の社員寮や自宅への帰宅を認めているが、平均的な会社員と比べて恋人や妻、子供と過ごせる時間が極端に少なく、それが嫌で別の仕事へ転職を早期に考える新人も多い。さらに、新入社員にとっては鉄塔の高所作業で恐怖を覚えてしまうことも離職理由の一因にはあるだろう。
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