【第9回】“鋼構造物の現場DX”をもたらす先端研究、機械学習のボルト締め付け判定など“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(9)(2/3 ページ)

» 2022年02月02日 10時00分 公開

深層学習で鋼橋の腐食を4分類で評価

 鋼は自然の状態では酸化して錆び、腐食していきます。また、繰り返しの荷重によって疲労することもあります。強度も大きく、優れた材料ですので、これらの劣化に対しても、適切なメンテナンスをすれば、長寿命に利用することができます。とくに、適切なタイミングで塗装をすることが、ライフサイクルコストの低減には有効ですが、それには腐食や塗膜の状態を適切に評価する必要があります。

 文献3「畳み込みニューラルネットワークの出力結果に二値化を適用した鋼橋の腐食割合算出の一検討」※3では、鋼橋の腐食を評価するにあたって、画像をブロックに細分化し、深層学習によって、「腐食」「塗膜変状」「健全」「判定対象外」の4つに分類しています。さらに、腐食の規模や程度も定量評価できるようにするべく、下図のように、腐食と判定されたブロックに対して、線形判別分析で腐食領域を抽出しています。

腐食画像(左)と画像内での腐食領域の抽出例(右) 出典:※3

※3 「畳み込みニューラルネットワークの出力結果に二値化を適用した鋼橋の腐食割合算出の一検討」中村和樹,和泉勇治,子田康弘共著/AI・データサイエンス論文集2巻J2号p103-112/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2021年

耐候性鋼材の防食機能を機械学習で評価

 耐候性鋼材は、適切な環境下で使用することで、腐食の進行を抑制する保護性さびを表面に形成し、塗装範囲を大幅に減らすことができることから、橋梁(きょうりょう)にも広く用いられています。

 耐候性鋼材を用いた橋梁の維持管理は、防食機能の劣化状態に基づいて行われています。その判定は、目視によって、「1」〜「5」の評点を付けて防食機能を評価するもので、評点が3から5までは措置は不要、評点2は経過観察、評点1は対策が必要とされています。防食機能の評価では、さびの色や表面性状、粒子の大きさなどといった外観の情報をもとに、点検者が総合的に判断していますが、下図の画像例から分かるように、その判別は必ずしも容易ではありません。

さび外観画像の例:左から評点1、評点2、評点3 出典:※4

※4 「耐候性鋼板のさび外観評点識別精度に及ぼすCNNモデルと画像サイズの影響」田井政行,関屋英彦,岡谷貴之,中村聖三,清水隆史共著/AI・データサイエンス論文集2巻J2号p378-385/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2021年

 そこで、本委員会(※4)では、さび外観画像の評点識別モデルを構築し、機械学習の各種手法による精度の比較・検証を行っています。また、学習や検証は、下図のように画像を分割した上で、回転などでデータを拡張して行うのが一般的ですが、その際の画像サイズについても比較を行っています。このように同一のデータで手法の比較・検証を行い、また、データの標準化についても検討することで、AI適用の発展が加速するものと期待しています。

トリミング後の画像例 出典:※4

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