1934年に東京都千代田区で竣工した九段会館が、東急不動産と鹿島建設により、現行法規に合わせた仕様のオフィスに生まれ変わる。
東急不動産と鹿島建設は現在、東京都千代田区で、登録有形文化財建造物「旧九段会館」の一部を残しつつ複合施設に建て替える保存・復元工事「九段南一丁目プロジェクト」を進めている。2021年10月29日には、今回のプロジェクトで旧九段会館の一部を残した「保存棟」の1〜3階と5階の一部を披露する取材会を開催した。
会場では、東急不動産 都市事業ユニット 開発企画本部 開発第一部 事業企画グループ 課長補佐 伊藤悠太氏が、九段南一丁目プロジェクトで保存している部屋と部材や竣工後のメンテナンス方法、今後の方針について説明した。
保存棟の1階では、正面玄関・玄関ホール、北東玄関、C階段を紹介。正面玄関・玄関ホールは、入り口に設けられたブロンズ製の扉と枠や天井とともに、床の大理石と壁に配置された「刀を模した鋳物(いもの)」を保存している。玄関ホールのブロンズ製扉は、複雑なデザインで、再現が難しかったため、表面材は高い技術力を持つ工場で製造した。天井は、現代工法により、落下のリスクを減らしつつ、当時施された漆喰(しっくい)風のデザインを再現。
さらに、正面玄関の柱梁(ちゅうりょう)では「免振レトロフィット工法」で免振工事を行っている。免振レトロフィット工法は、既存柱梁の上部に補強躯体を構築し、仮設ジャッキで建物を持ち上げながら、少しづつ柱を特殊な機械で切り取り、隙間に積層ゴムの免振システムを挿入する。既存柱梁の基礎に、免振システムを取り付けることで、建物と地盤が分離され、地震が発生しても建物の揺れを最小限に抑えられる。
北東玄関では、現代法規に合わせて、急斜面の階段をなだらかにする工事を実施。工事では、壁の黒い大理石は新規のものに変更しなければならない予定だったが、「FST工法」を活用することで、3面の大理石はそのまま生かした。施工時には、複数の黒い塗料を用意し、従来の壁色を再現している。
FST工法は、複数の層にわたって浮きが併発している外壁仕上げ面の剥落防止工事を対象とし、アンカーピンを埋め込む構造体の穴に、多層空隙注入ノズル「FSノズル」を用いて、コンクリートの最深部にまで樹脂を注入し終えてから、奥に存在する浮きから順に、1層ずつ浮き部に樹脂を充填し、浮き部の剥(はく)離を防ぐ。
C階段では、壁面の漆喰を復元し、希少な大理石「霞(かすみ)」の保存と活用を行っている。1階は、竣工後、1階には、会員制のシェアオフィスを配置し、場所にとらわれない多様な働き方を多用な企業に提供する。
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