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» 2021年05月19日 06時06分 公開

建築事故で損害賠償請求が工事発注者にも及ぶ場合も、リスクを最小限にするには?ファシリティマネジメント フォーラム 2021(2/3 ページ)

[川本鉄馬,BUILT]

発注者にも過失責任アリ、コストダウンが損害に

 富田氏は、発注者のコストダウンに関連する事例として、ショッピングモール・コストコのスロープ崩落事故を引き合いに出した。崩落事故は、プロジェクトの進行に連れ、担当業者が変更になり、業者間の連携が損なわれて発生した。

 直接の事故原因は、建物側とスロープ側が異種構造だったことによる。ラーメン構造の建物側とブレース構造のスロープ側で強度に差が生まれたことで、スロープが崩れ、死者2人と重軽傷6人の惨事となった。

 ショッピングモールのスロープ崩落事例の起因を辿(たど)ると、もともと発注者は建築設計の元請けにあたる意匠設計事務所に委託し、意匠設計事務所は構造設計事務所Aに依頼していた。構造設計事務所Aでは、店舗もスロープもブレース構造で設計を進めた。

 しかし、途中から発注者側の部長がコストダウンのために、別の構造設計事務所Bに依頼先を変更した。構造設計事務所Bは、建物・スロープとも筋交いの無いラーメン構造で設計した。

 ただ、以前設計を行っていた構造設計事務所Aは完全にプロジェクトから離脱したわけではなく、現場管理や構造図の作成などを行っていた。ここで、構造図を作る構造設計事務所Aと構造計算をする構造設計事務所Bと、役割分担のような体制となった。

 設計作業のなかで、構造設計事務所Aは構造設計事務所Bに対し、スロープ側にはブレースを入れてほしいと要請した。その結果、建物側がラーメン構造で、スロープ側がブレース構造の異種構造となった。

分離発注による事故例。分離発注によって業者間の連携に“谷間”が発生。店舗とスロープの構造の違いによって強度に差が生まれ、スロープ側が崩落した。事故の責任は、発注者側にもあるとされた

 この事故では、保険会社が発注者の被害を補償した。そして、保険会社は事故の原因を作った設計事務所と建築会社を訴えた。しかし、途中で構造設計事務所を変更した発注者にも責任があるとされ、損害の4割が過失相殺されることとなった。

保険会社が意匠設計事務所、構造設計事務所、建設会社などを訴えたが、発注者にも過失があったと認められ、損害の4割が過失相殺された

 豊田氏は、「発注者が特定の業者に委託する指示をしたときは危険を生む可能性がある」と述べ、教訓として「責任ある業者に任せることが重要だ」と語った。また、分離発注には問題があり、仮に分離発注を行う場合にも、何らかの管理者・監修者などを置くことが不可欠との考えを示した。

PM不在の建築プロジェクトで起きる問題点とは何か?

 続いて、Literatusの池村友浩氏は、建築プロジェクトマネジメントの役割と意義を解説した。

 池村氏は、建築分野でのプロジェクトマネジメント(PM)の必要性を帝国ホテルの建築プロジェクトになぞらえて提言した。帝国ホテルはフランク・ロイド・ライトが約100年前に設計した建築物だが、設計が開始された時点では工期2年・工事費130万円で計画されたのだそうだ。しかし、プロジェクトマネジメントが不在であったため、実際に完成したのは約7年後であり、工事の費用は約900万円にも上った。

 同様の懸案事項は最近では、新国立競技場の建築時にもみられ、「問題は100年前から変わっていない」(池村氏)。

PMが機能しないと、当初の計画・予算を大幅に超過

 池村氏は、現代の発注者には「いつものやり方が通用しない」ことに対するストレスを抱えている人が増えているとする。

 その理由の一つには、マーケットそのものが変化し、その移り変わりを読めないことがある。また、検証事項が多く複雑で、事業が成立しにくいことも要因となっている。他に、コンプライアンスの厳格化や参画プレーヤーの増加なども無視できない要素だ。

 これらの課題は、最終的には建築プロジェクトの時間と費用に多大な影響を与える。池村氏は、「適切なマネジメント無しでは、プロジェクトを成功裏に導くことは難しい」と、プロジェクトマネジメントの重要性を訴えた。

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