地震による津波浸水深を正確に予測するためには、広範囲に及ぶ海表面の流速情報を利用する必要がある。流速情報の取得に役立つのがレーダーで、レーダーは沿岸から50キロ遠方の領域を面的に観測可能であることから、遠方かつ広範囲の流速を調べられる。こういったレーダーの利点を生かし、三菱電機は、正確な海表面の流速情報を取得する技術を開発してきた。そして、今回はこのレーダー技術にAI技術「Maisart」を組み合わせることで、数秒程度の計算で高精度な浸水深予測を可能にした。
三菱電機は、建設工学研究振興会と共同で、レーダーで検出した海表面の流速値から、陸地での津波浸水深※1を津波検出とほぼ同時に高精度予測する「レーダーによる津波の浸水深予測 AI」を開発したことを2021年2月4日に発表した。
※1 津波浸水深:指定した地域の地盤における高さで津波が到達した時に浸水する深さ
日本は地震の発生頻度が高く、震災で生じる津波による被害が懸念されている。そして、被災時における適切な避難行動の策定と遂行のためには、津波が陸地に到達する前に、津波による浸水深を迅速かつ高精度に予測することが求められている。解決策として、従来は事前のシミュレーションデータから津波の類似パターンを照合するといった手法で浸水深が予測されていた。しかし、数分の計算で浸水深に平均3メートル程度の誤差があり、精度に問題があった。
そこで、三菱電機は、同社のAI技術「Maisart(マイサート)」を活用し、津波による浸水深を数秒程度の短時間で高精度予測するレーダーによる津波の浸水深予測 AIを開発した。
レーダーによる津波の浸水深予測 AIは、あらかじめさまざまな地震による津波発生条件(震源地、断層のずれ量、ずれ方向など)に対して地形データを用いたシミュレーションを行い結果を学習。運用時には、AIが学習結果に基づき津波浸水深を予測確率付きで予想する。また、津波検出とほぼ同時に、誤差1メートル程度の精度で浸水深を予測することができる。
三菱電機は、既に南海トラフ地震を想定した実験で今回のAIが備える機能を検証し有効性を確認している。今後、同社は、さまざまな地震に対する検証試験を実施し、沿岸域の自治体や港湾、空港施設の重要施設における津波監視支援を目標に、実環境での適用に向けた研究開発を推進する。加えて、従来手法では予測困難な海底地すべり要因の津波などにも対応範囲を広げる方針を示している。
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