山岳トンネルにおける掘削先端部(切羽)では、オペレーターが地山面を目視確認しつつ施工を行っており、省人化、省力化ならびに、より安全で生産性の高い施工を行うことが求められている。こういったニーズを踏まえて、エフティーエスらは、吹付作業の完全自動化を実現する次世代吹付システムの開発を進めている。同システムの要素技術として、吹付ロボットとモーションキャプチャーカメラによる吹付ロボットの位置計測技術を開発した。
エフティーエスは、清水建設、戸田建設、西松建設、前田建設工業と共同で、新型の吹付ロボットとモーションキャプチャーカメラによる吹付ロボットの位置計測技術を開発したことを2021年1月27日に発表した。
通常、切羽の吹付作業で使用されるロボットアームは、ノズル座標を計測する場合に、アームの関節部に搭載されたセンシング機器から得られる情報を基に相対座標を測定後、相対座標をトンネル坑内座標系に変換する。この場合、ロボットの経年変化や計器の誤差が積算される。
一般的に吹付用のロボットアーム長は約10メートルあることから、稼働姿勢によってはアームで生じるたわみの影響を受け、アーム位置先端の誤差が理論上と比較して10〜15センチずれ、吹付コンクリートの厚さを正確に測れない。
また、モーションキャプチャーカメラで吹付ロボットアームの位置測定を高精度で行う際には、ターゲットマーカーを取り囲むようにカメラを配置する必要がある。しかし、トンネルの切羽は日々状況が変わるため、ベースマシンキャビンなどにカメラを一方向にしか設置できない。そして、計測線上にアームとマーカーが重なり物理的にノズル近傍を測れないケースが発生する。一方向の計測では奥行き方向の測位精度に問題もあった。
モーションキャプチャーカメラのターゲットには、極小の反射ビーズが塗布されたプラスチック製反射マーカーを使用するが、トンネル坑内の作業空間内では十分な反射が得られないことがある他、外的要因によりノイズなどの影響を受け高精度な位置の測定が難しかった。
上記の課題を解消するために、エフティーエスらは、新型の吹付ロボットとモーションキャプチャーカメラによる吹付ロボットの位置計測技術を開発した。
新型の吹付けロボットは、アームの関節数を従来の8カ所から6カ所とし、取り付けられた計器による誤差の要因を少なくするとともに、構成部材の剛性を上げてアームのたわみ量を最小限に抑えた。ロボットを稼働させる油圧シリンダーは、PLC制御タイプにすることで、既存のロボットアームより最適で微細な稼働調整を可能とし、関節数が8カ所あるロボットアームと同等の操作性を実現。関節数が少なくなったためモーションキャプチャーカメラとマーカー間の走査線を遮るものがなくなり、モーションキャプチャーカメラのターゲット測位検知が安定した。
モーションキャプチャーカメラは、吹付ロボットと一体になったベースマシンのキャビン屋根部に備え、吹付ロボットの可動空間14(幅)×8(高さ)×10(奥行き)メートル内のマーカーを正しく計測するために最適な台数と方位角に調整されている。
モーションキャプチャーカメラで追尾するマーカーには、自発光タイプのLEDマーカーを採用した。自発光式LEDマーカーは、トンネルの坑内照明とは波長が異なり、他波長の影響を受けることなく的確に計測される。これらにより、吹付空間におけるマーカーの位置測定精度で±1センチ以内を実現。
また、計測したロボットアームの座標値を、トンネル坑内の測量座標系に変換し一致させることで、トンネル設計のモデル空間内における吹付ロボットのノズル位置を正確に合成表現することを可能とした。
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