道路や橋、堤防などの土木構造物は各現場の地形や地質に合わせて単品生産されるため、その設計施工では種々の2D図面を作る必要があった。この膨大な手間や各図面間の不整合は現場の大きな課題となっている。建設コンサルタント大手のパシフィックコンサルタンツは、3D CAD「3DEXPERIENCE CATIA」を用いたCIMで解決を図っている。本稿ではオンラインセミナー「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN ONLINE」で、同社の鈴木啓司氏、菊池将人氏、千葉洋一郎氏が行った発表を紹介する。
仏DASSAULT SYSTEMES(ダッソー・システムズ)は、2020年7月14日から8月7日まで、“新しい価値創造のためのプロセス・創発・働き方”をテーマとするオンラインイベント「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN ONLINE」を開催した。
イベントでは、日本のモノづくりの現場におけるDX(Digital Transformation)に関わる最新の取り組みが数多く紹介されたが、中でも注目を集めた一つが、わが国を代表する建設コンサルタント・パシフィックコンサルタンツによる事例発表「土木設計分野における新たなBIM/CIMソリューションによる生産性改革の取り組み」だった。
パシフィックコンサルタンツは、主に道路や橋梁(きょうりょう)、河川、砂防、上下水道といった社会インフラ整備事業の企画、調査、計画、設計を担う国内大手の建設コンサルタント。東海道新幹線から羽田空港、成田空港、種子島宇宙センターから、最近では築地虎ノ門トンネルまで、多くの大型インフラ整備プロジェクトに携わってきた。
今回の発表は、3次元モデルのCIMを応用した取り組みに関するもので、土木設計分野の長年にわたる課題への1つの解答を示唆するプレゼンテーションとなった。会社紹介を口火にした講演は、続いて砂防堰堤(えんてい)の設計3Dモデル活用への試みへと進んだ。
2020年7月の記録的豪雨により、九州や中国、中部地方を中心に多くの災害が発生した。とくに大雨による土砂災害が、各地に多大な被害をもたらしたのは記憶に新しい。
講師が事例として採り上げた砂防事業とは、この土砂災害を防ぐ防災対策の一つにあたる。端的に言えば、山中の河道の危険箇所に砂防堰堤と呼ぶコンクリート壁を構築し、土石流を堰(せ)き止めようというものだ。砂防堰堤の設計は、配置計画からはじまり、最も合理的かつ効果的な堰堤の配置を求めて時に10ケース以上も検討する。しかも、高さを少し変える程度の微修正でも、計画規模に合わせ土砂量の再計算が求められるなど設計者の大きな負担となっていた。
生産性向上を妨げるこうした設計環境は、以前から業界でも大きな壁となっていた。そのためパシフィックコンサルタンツではかねてより、近年頻発する土砂災害へ迅速に対応するファクターと位置付け、効率化を試行錯誤していた。
また別の問題で、現場の形状や地質に合わせて“一品生産”する砂防堰堤は、同規模・同用途の施設でも他の現場へそのまま応用することは難しいということもあった。別現場では、同様の施設であってもイチから再設計するしかない。
これら3つの課題解決を目指し、パシフィックコンサルタンツはハイエンド3D CAD「3DEXPERIENCE CATIA(以下、CATIA)」を導入。CATIAで作った独自の3Dモデルを核にして、砂防堰堤の設計でCIMを活用していった。
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