ニチレキとグリッドは、AIと電磁波で、鉄筋コンクリート床版上面の損傷箇所を判定する「smart 床版キャッチャー」を開発した。今までの熟練技術者が行っていた調査に比べ、調査比で約2割のコストダウンが図れるという。
ニチレキとグリッドは2020年7月20日、AIと電磁波を組み合わせて、非破壊で橋梁(きょうりょう)の鉄筋コンクリート床版上面の損傷箇所を判定する「smart 床版キャッチャー」を開発した。このほど、国土交通省が策定した「点検支援技術性能カタログ(案)」にも掲載された。
近年、高度経済成長期に整備された国内のインフラは、耐用年数を迎えており、老朽化が社会課題となっている。なかでも、橋梁は約72万橋近く存在し、10年後には、建設から50年以上を経過する橋梁が半数以上を占めると言われ、今後、維持管理費・更新費が増大することが見込まれる。
そのため、インフラを定期的に点検・診断し、致命的欠陥が発現する前に対策を講じることで、事故や災害を未然に防ぐとともに、インフラの長寿命化により、長期的な視点でのライフサイクルコスト縮減を図る「予防保全」の考えに立った維持管理が必要とされている。
こうした業界の状況を受け、ニチレキは、予防保全を実現するため、電磁波レーダを搭載した測定車「床版キャッチャー 2」を2014年に開発し、交通の流れの中で走行しながら測定を行い、非破壊で床版上面の状態を判定するシステムを確立。しかし、電磁波の反射信号による判定は、熟練技術者の判断によって行っていたため、長時間を要することによる高い調査コストや判定技術の継承といった課題があった。
そのため、社会インフラ業界を中心としたAI開発プロジェクトを多数手掛けてきたグリッドのAIと、ニチレキの道路舗装材料に関する製造・工法・施工、高度なコンサルティング技術を融合させて「smart 床版キャッチャー」を開発した。
smart 床版キャッチャーは、電磁波の反射信号に、熟練技術者が判定した結果を反映させた教師データをベースとしている。これまで報告書の作成は事務所に戻ってまとめていたが、新システムでは計測後に損傷範囲の判定結果がクラウドに解析速報として即時アップロード。調査から解析までを現場で完結させることができるため、道路管理者は迅速に判定結果を確認することが可能になる。
また、「smart 床版キャッチャー」に高精度位置情報(RTK GNSS)を採用したことで、計測座標を基にしたAI判定前後の作業において、これまで熟練技術者により行われていた両車線の座標合わせ作業が自動化する。作業工数が削減されることで、定期点検の効率化につながり、従来の熟練技術者による方法と比較し、調査費用は約2割のコストダウンを達成した。
また、システムには、実際の損傷などから得られる新たな知見を反映できる「AI再学習機能」を採用。熟練技術者がAI技術者の手を借りることなくAI再学習を実現し、新たに蓄積したデータをAIが再学習することで、判定の精度が向上することが期待される。
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