長野県長野市に拠点を置く土木管理総合試験所は、インフラの維持管理が抱える慢性的な人手不足や人材を採用しても売り上げが伸ばせなくなっている現状に対し、100年後にも持続可能なインフラの維持管理を実現すべく、自社だけに限らない多様な業種との共創も見据えた“土木テック”の研究を進めている。ロボットや点群、AIといった土木テックによって、従来はマンパワーに依存していたインフラ点検が効率化され、長期的な視点で防災・減災や国土強靱化につながると期待されている。
土木管理総合試験所は、長野本社に中央試験センター、山口県山口市に西日本試験センター、宮城県仙台市に東日本試験センターと、インフラを対象にした試験施設を日本最多の3カ所も有し、年間3万件以上の検査業務を受注している。
近年は、老朽化が急速に進むインフラの維持管理や技術者不足などの問題に対する解答として、これまで築き上げてきたノウハウや高精度の検査技術を生かし、インフラのライフサイクルコストを最小化する“土木テック”の実用化に向けた開発に注力している。土木テックの可能性と、AIを活用したインフラ点検の事業展望を土木管理総合試験所 企画部 次長 塩入奈央氏に聞いた。
土木管理総合試験所の成り立ちは、1998年の開催が検討されていた長野オリンピックに伴い、県内での建設ラッシュが予想されたことで、長野県長野市に拠点定め、1985年にインフラ事業をスタートさせたのが始まり。
長野五輪開催の決定とともにインフラ整備が爆発的に進むのに合わせ、“総合試験所”という名の通り、土(土質・地質の成分解析、土の非排水試験、原位置試験、ボーリング調査)から、環境(土壌汚染、水質、動植物の植生、騒音・振動などの調査)、コンクリート構造物(橋、トンネル、道路の非破壊検査)までをワンストップで提供してきた。
その後、国内3拠点の自社試験場をメインに施工現場でも調査・コンサルティング事業を展開し、対象エリアも隣接する新潟県、関東、東日本大震災を機に東北へと広げた。現在では全国17支店以外にも、熊本と札幌にフランチャイズ展開するなど、さらなる業容の拡大を図っている。
ワンストップサービスのメリットとして、施工前から施工後まで、プロジェクトの最初から最後まで工事全体を俯瞰した調査提案が可能なことが強みとなっている。一方で、工程の異なる業務を横断するため、確かな知見を持つ技術者の育成が困難という将来的な懸念もある。
とくに土木分野の維持管理は、労働集約型で人海戦術に依ることが大半ながらも、少子高齢化でノウハウを保持する熟練技術者が減少していくことが確実視されている。加えて日本には橋梁(きょうりょう)70万橋、トンネル1万本、高速道路総延長9341キロ、国道6万5843キロと、維持していくインフラが膨大に存在する。
また、2014年7月1日に施行した「道路法施行規則の一部を改正する省令」と「トンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示」※1では、5年に1度の頻度で、近接目視で点検することが義務化となったため、いかに持続可能なインフラ維持管理の体制を構築するかは、喫緊の課題となっている。
※1 国土交通省「道路の維持修繕に関する省令・告示の制定について」
土木管理総合研究所では、山積する問題を解決する糸口を「蓄積した経験×最新技術=土木テック」に見いだした。土木テックによって、工事事業者にとっては、維持管理コストの縮小、技術者不足の解消、工期の短縮化などが期待され、一般市民にとっても工期が短くなることで渋滞や通行止めの短期化や騒音低減、道路陥没などの事故リスクの低下など、日常生活への好影響がもたらされる。
現在、稼働している土木テックの一つは、土質試験の自動化がある。これまで室内の土質試験は、現場から採取してきた土を詰めた20〜30キロの重い袋を試験センターまで運び、ふるいにかけ、土の粒度を分けていた。
2019年に本社の中央試験センターに導入したロボットアーム型の「自動分取装置」は、地元長野のロボット製作メーカーと共同で約8000万円を投じて開発した。4〜5人が1袋30分かけていた検査作業が、高齢者や女性を問わず1人だけのオペレーターで、わずか数分で済むようになった。これからは、本社以外にも、仙台と山口の試験センターでも順次設置していく予定だという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.