設計でBIM導入を先導的に進めている大和ハウス工業でも、施工領域での全社的な取り組みは2020年の4月から始まったばかり。早くから施工BIMに取り組んできた同社が、なぜ、なかなか全社展開に至らなかったのか?その原因を思案するうち、多くの方が頭の中に思い描く、「施工BIMの本質」そのものが間違っていたのではないかという考えに行き着いたという。連載第4回では、同社技術本部 建設デジタル推進部 次長・伊藤久晴氏が、なぜ日本の施工BIMはダメなのか、そしてどう取り組むべきなのかを示す。
3次元のモデルを作り、図面を作成し、情報を管理するというBIMの特性は、施工段階でも十分に活用できるという考えから、当社でも早くから、施工段階での施工BIMに取り組んできた。施工図の作成・施工数量の算出・施工計画図の作成など、計り知れないメリットがあるはずだと疑いもしなかった。しかし、実際にいざ取り組んでみると、実務展開にはそうやすやすとは進まなかった。Revitによる施工図の作成はできるが、修正や変更に手間取り、施工BIMを実施した多くのプロジェクトが、結果的には2次元CADの施工図に変えざるを得ないという状況に陥った。
施工側では、設計からBIMデータさえもらえば、施工図や数量算出などが自動的に生成できるとか、BIMはフロントローディングだから、着工後の設計変更が一切無くなるため、変更対応による工数増や工期への影響も無くなるとかいった思惑が先行しがちである。
しかし、実際にやってみると、外注業者に頼んでRevitで施工図を作っても、設計変更は相変わらず発生し、その対処をしようにも自分ではRevitを使えないので、すぐに修正できない。そこで、急遽(きゅうきょ)追加で外部業者に作業を依頼することになるが、時間もコストも余計に掛かるという現実に直面し、その失望感から「BIMは使えない」という烙印を押してしまう。
それでも上からは、BIMを使えと指示が来るため、作業自体は2次元CADで行い、その図面をRevitで3次元化する予算を用意して、「BIMで仕事をした」と報告している現場は少なくないはずだ。しかしそれでも上層部は、そもそも施工BIMが何なのかを理解せず、BIMを使っている体裁を対外的に示せれば十分なので、中身を見ずに満足するだろう。
一方、Revitによるモデルや図面の作成を外注に依存している設計部門は、BIMで設計を行っても、業務効率につながらず実感が沸かないため、次工程である工事部門に期待を懸ける。そのときは海外の事例を引用して、「“フロントローディング”で設計負荷が掛かっている分だけ、工事部門での工期や原価が下がるはずだ」と言う。ところが、「設計でBIMを行うから、工期や原価を下げられる」と口にする工事担当者に会ったことはない。なぜなら、設計が“後追いBIM”で仕事をしても、実際の工事に、設計のBIMデータは連携できていないし、干渉チェックによる納まりの確認程度では、工期や原価を下げるという根拠にならないからである。
以上のように、施工BIMはなかなか成果が出せず「空回り」しているように思える。なぜ、このようなことになるか?そもそも、施工BIMの本質を取り違えているのではないだろうか?今回は、これまでの当社での施工BIMの取り組みを紹介しつつ、どうすれば空回りを改善できるのかをいま一度、考えてみたい。
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