西松建設とアカサカテックは、マルチGNSS受信機を使用した測位衛星システムの試作機を開発した。実用化すれば、山間部の工事で地盤や法面の変位を高い精度で計測し、土砂崩れなどの予防保全に役立つことが期待される。
西松建設とアカサカテックは2020年04月21日、マルチGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)を地盤変位計測に適用したと公表した。
西松建設では、従来は変位計測に米国GPS信号のみを利用していたが、今回開発したモジュールは、複数衛星システムの信号を使って位置を測定するため、位置測定の安定性が向上し、使用範囲が拡大する。傾斜計も併設しているので、地盤勾配の変化もモニタリングすることが可能になる。
山間部での斜面工事や法面造成が伴う道路や構造物などの建設では、法面の変状把握や崩壊回避の対応として、地盤変位の計測管理が必要とされている。しかし、これまでの変位計測は、山間部のような環境では、地形によりGPS衛星の信号が遮断されたり、時間帯により受信できるGPS衛星数が不足したりして、測位衛星システム特有の誤差が生じていた。その点、マルチGNSSであれば、大規模な法面や斜面などを計測した際に、長距離計測や夜間計測ができることに加え、天候の影響も受けにくい優位性がある。
西松建設は、傾斜監視クラウドシステムとして「OKIPPA」を提供しており、OKIPPAが傾斜・位置の概況計測や監視用なのに対して、マルチGNSSはより正確な精度と測定頻度が多い状況に対応する。
新手法は、マルチGNSS受信機を使用することで、GPSに加え、ロシアのGLONASS、日本の準天頂衛星(QZSS)などの信号を選択して受信。衛星の捕捉数や衛星配置に起因する測位衛星システム特有の誤差要因が少なくなり、位置測定の安定性も向上する。
システムの構成は、山間部に設置する移動局に、GNSS受信機(モジュール)と傾斜計を備えたGNSSアンテナを立て、衛星を介して基地局で受信。クラウド上のGNSS解析処理にかけ、PCやスマートフォンなどのWebブラウザ上で変位や傾斜の計測値をモニタリングする。仮に計測値が閾(しきい)値を越えたときは、メール送信やパトライト点灯などにより警報が出せる。
今までの測位衛星システムによる変位計測では、落石や小動物の衝突による計測器の移動が変位として計測されることがあった。こうした変位については、傾斜計の挙動と照合することで、実際の地盤変位との区別を推測できるようにしている。
新システムは、工事に伴う地盤やのり面の変位をはじめ、老朽化したのり面や土木構造物の変位、豪雨や火山活動などの自然現象に起因する地盤変位の監視などに導入されることが期待されている。
現在、西松建設では解析衛星数が増加することに対応したデータ処理環境の構築や最適化を行っている。データ処理環境の構築後には、マルチGNSS受信機を使用して実際に現場で地盤変位計測を行う他、自然現象に起因する地盤変位の監視計測へも適用するとしている。
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