国内の土木分野では、インフラの老朽化という喫緊の課題が差し迫っており、道路橋を例にとれば建設後50年に達するものが6割にも及ぶとされている。建設業界での慢性的な人手不足の解消と、必要とされる事後保全から予防保全への転換で必須とされる新技術と期待されるのが「AI」だ。土木学会とインフラメンテナンス国民会議のシンポジウムから、インフラメンテナンス領域でのAI活用の最新動向を追った
ここ数年、AI技術を活用して、インフラメンテナンスの業務プロセスを改善する取り組みが進んでいることを受け、土木学会(構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会)と、インフラメンテナンス国民会議(革新的技術フォーラム)は、2019年11月に都内の土木学会講堂でシンポジウムを開催した。
当日のセッションの中から、土木研究所 構造物メンテナンス研究センターの大島義信氏が、AIを土木分野で導入するにあたっての課題やこれからの可能性を分析した「インフラメンテナンスでAI技術を活用するためには〜土木技術者に求められるものとは〜」と題した講演をレポートする。
大島氏は、橋梁(きょうりょう)の点検の前提として、「技術者が診断する際は、橋の見た目や周辺環境から、耐荷力や耐久性の有無を判断している。外観や事前情報から分かることは、ひび割れや漏水といった表面の形状や状態と、この場所が塩害地域に当たることや構造形式などの情報が得られる」。
しかし、「耐荷力については、現場で撮影した画像では、健全か、健全ではないか、どう見てもダメの3段階ぐらいの評価しかできないのが実態だ。一方、耐久性は、写真だけでも、被りが浮いていることなどが確認でき、どういうルートで(漏水の)水が流れ込んできているかなどを判別することはできる」と説明。
その上で、「点検は、究極的には(本来)あるべき姿から、乖離しているかの判断がまずある。その次に、“どのぐらい離れているか”耐荷力を定量的に評価することになるが、見た目の情報だけでは限界があり、ここの部分に対して、近年発展が著しいAIへの期待がある」とした。
AIの歴史を振り返ると、1950年代にAIのコンセプトが現れたのを皮切りに、本格的な研究が始まったのが1970年代。この頃にエキスパートシステム、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、サポートベクターマシンなどの技術的な進展があり、2000年代の第3次AIブームでは、ディープラーニングが登場したことで盛り上がりを見せている。
大島氏自身の研究としては、2008年にアルカリ骨材反応(アルカリシリカ反応:ASR)の診断をAIでできないかを試みている。実験では、最初にひび割れのパターンを集め、データとして特徴付けるためのベクトル化をして、ベクトルの距離を測ってアル骨かどうかを判別。当時は画像からひび割れを抽出するような技術は確立されておらず、自分でトレースした画像などで補ったという。
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