ライカジオシステムズは、同社の3Dレーザースキャナーを用いて取得した点群データでVRコンテンツを作成し、展示会の来場者に公開する取り組みを始めている。建物内外を短時間で3D計測し、VRデータ化する技術は、魅力的な一般展示と効率的な文化財研究の両面から活用が期待できる。
ライカジオシステムズは、筑波大学と文化庁の共同研究「文化財の活用を進めるための科学調査」の一環として、3D計測を利用した文化財の新たな研究および展示手法に取り組んでいる。
同社が2019年5月に実施した3D計測は、京都文化博物館別館で行われた。同館は、辰野金吾と長野宇平治の設計で、国の重要文化財にも指定されている旧日本銀行京都支店建物を利用している。
今回の3D計測では、別館建物の外観、内側ホール、屋根裏を、同社の小型軽量3Dレーザースキャナー「Leica BLK360」でくまなく測量した。1回の測量にかかった時間は、計測箇所の写真撮影も含めて3?5分程度。スキャナー4台の稼働で、全測量工程をほぼ1日で完了させた。
取得した点群データはエリジオンのInfiPointsで加工し、建物内外を自在に閲覧できるVR(仮想現実)コンテンツの作成に活用した。このVRコンテンツは、同館で2019年8〜10月に開催した「辰野金吾没後百年 文博界隈の近代建築と地域事業展」の来場者に提供され、ヘッドマウントディスプレイを使ったデジタル空間のVR体験という新しい展示方法として注目を集めた。
点群データから作成したVRデータは、仮想空間に構築した高度に精巧なレプリカであり、現実空間では不可能な展示も可能となる。例えば同展では、「別館の内部をぐるぐる見渡すルート」「正面から天井を突き抜け屋根裏に移動し、屋根を支える木組みが見えるルート」「天窓から室内を照らす光の通り道を体験できるルート」という3つのバーチャルツアーを体験できるプログラムを開発し、来場者に提供した。
来場者からは、近くで見ることが難しいスレート屋根や、鳥のように建物を見下ろして飛び回りながら建物の内外を閲覧できることに感動の声があがったという。また車イス利用者からは「自由に館内を動き回れたようだ」との感想が寄せられ、バリアフリー展示への応用可能性を示唆している。同展と同時期に開催された国際博物館会議の参加者もVRコンテンツを体験し、作成方法やコストについて多くの質問が寄せるなど、文化財の新たな展示方法として国内外から強い関心が示された。
3D計測で取得した点群データやVR技術を活用した取り組みについて、京都文化博物館学芸員の村野正景氏は、「点群データは、どの点と点の距離を測っても正確な値が得られることから、私たちの想像力次第で活用の可能性が大きく広がる。魅力的な一般展示と効率的な文化財研究の両面から、今後も積極的に3D計測やVR技術を取り入れたい」としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.