AEは、入力データを一度圧縮し、再度入力データを復元するようなニューラルネットワーク。入力/出力のデータが一致するように学習することを前提としており、正常データのみを学習したAEによって、入力データを復元し、元通りに復元できるかどうかで正常か異常かを判定する。元通りに復元されないほど、異常データとみなされ、復元できたかどうかは、入力/出力のデータの単純な平均2乗誤差で判断する。
維持管理領域でのAI活用に関して、野村氏は「まだ研究段階ではあるが、その一つには振動モニタリング(時系列問題/データ同化)がある」と紹介。振動モニタリング(時系列問題)は、振動数や減衰などの振動特性の同定履歴から、異常発生(突発的な破断など)を疑う手法※1。
振動モニタリング(データ同化)は、物理法則を記述する数値シミュレーションモデルに、実測データを導入することで、現象を再現するモデルを構築しようとするもの。具体的には、振動方程式に構造物のパラメーターを入れて、シミュレーションモデルを走らせる。実際に計測されている数値と比較することで、正常な構造情報を時間経過とともに見ていき、剛性や減衰の数値で、異常な数値が出ていないかを確認する。
※1【参考文献】
■地震応答から剛性/減衰を検知する技術
・佐藤/梶 土木学会論文集 No.675/I-55,2001.4
・Yoshida Stoh,J.of Natural Disaster Science,Vol.24,No.2,2002
■鉄道車両走行下の桁振動から剛性/減衰を同定する技術
・松岡/貝戸他,土木学会論文集A1,Vol.69,No.3,2013
野村氏はここまでのまとめとして、「広く産業界を見渡すと、AIの応用は進んでいると言える。実際に機械学習や深層学習は、手間暇をかければ誰でも実装することは可能になった。なかでも目的に合ったデータが大量にあるなど、条件を満たすのならディープラーニングを勧めたい。今後、工学分野でのAIは、各種力学とAIを適材適所で利用することがトレンドとなるだろう」とした。
次に最新動向として、「令和元年度土木学会」の年次学術講演会でのAI研究に触れた。AIに関連する論文数は、2017年度で23件、2018年度は57件、2019年度は89件と、3年間で右肩上がりに増えている。構造・力学や水、土など7部門の内訳では、建設作業では、維持管理が39本と突出する一方で、計画は少なく、全体としてAI単体だけではなく、周辺技術との組み合わせで企業単独による実用化が図れそうな研究が多かったと報告。
維持管理分野のAI活用例39編は、画像や音を対象とした研究がほとんどで、点検支援技術が多く、診断サポートも1件だけあった。
画像に関しては、前述した認識や検出、セマンティックセグメンテーションの技術が多く、ひび割れ、剥落(はくらく)、遊離石灰、漏水、ダムポップアウト、レールの継ぎ目、溶接不良、塗膜劣化、腐食などの検出に活用。また、時系列信号は、打撃音や破壊音で物が壊れているかの判定に使われている。
他にも、画像と構造物諸元、記録されている損傷情報を一緒に学習する“マルチビュー学習”という手法も研究されている。
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