WorldLink & Companyは、金沢大学の研究グループによるAI研究を核に、5GとAIを組み合わせた橋梁点検システム「SeeCrack」の共同開発を進めている。2020年2月3〜12日に実証実験が成功したことで、同年春に運用が始まる5G通信を見据え、システムのユーザビリティの向上とパッケージングの検討を行い、年内にもサービスを開始させる。
「SkyLink Japan」のブランド名でドローンの販売などを行っているWorldLink & Companyと、金沢大学 理工研究域地球社会基盤学系の藤生慎准教授らの研究グループは、AIを用いた橋梁(きょうりょう)点検システム「SeeCrack」をNTTドコモが運用する「ドコモオープンイノベーションクラウド」上に構築し、5Gの高速かつ大容量の通信を活用して、AI診断結果の出力に成功した。
国内で高度経済成長期に建設された橋梁の老朽化が増加していることを受け、国は橋長2メートル以上の橋梁を対象に、道路管理者には5年に1度の近接目視点検を義務付けている。
しかし、財源や人材が不足している地方公共団体が増えているため、継続的に近接目視点検を続けることは困難となっている。加えて、点検方法や点検者によっては診断結果や精度にバラつきが生じてしまうことも問題とされていた。
そのため、道路会社やITベンダー、レンズメーカーなどは、橋梁写真の画像データをAIで分析して、人の行う点検作業の代替となる技術開発を進めている。しかし、現場で撮影した画像の転送には、現状の通信規格では時間を要してしまうことがネックとなっていた。
今回の成功により、SeeCrackが実用化すれば、従来の橋梁点検に比べ、時間や費用が抑えられるだけでなく、作業員の安全性も確保した効率的な点検が実現し、橋梁の予防保全が広がることも期待される。
SeeCrackの実験は、2020年2月3〜12日にNTTドコモ北陸支社内の5G技術を検証する環境「ドコモ5Gオープンラボ」で実行った。AIを構築したドコモオープンイノベーションクラウドは、5Gソリューションのサービス検証に活用するために、NTTドコモが提供しているクラウド基盤。ネットワークの伝送遅延の低減と、セキュアなクラウド環境の「MEC(Multi-access Edge Computing)」の特長を持つ。
金沢大学の研究グループは、2020年1月に画像データを活用した近接目視点検に替わる橋梁点検システムとして、超高解像度カメラ「PhaseOne」で撮影した画像とAIを用いて、橋梁の損傷を診断するシステムを開発。しかし、大規模な橋梁の場合は、点検に必要な画像枚数が膨大になるため、写真を持ち帰り、橋梁点検システムのローカルサーバに直接画像を取り込んで、診断結果を出力するという手間がかかっていた。
実証実験では、画像データを持ち帰らずに、現場に居ながら、2020年春より運用開始が予定される5G通信を介して、遠隔からの画像伝送による橋梁点検システムの運用を試みた。
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