熊本大学と凸版印刷は、熊本地震で崩落した熊本城の石垣を対象に、石がもともとあった位置を特定する「石垣照合システム」を開発した。
熊本大学と凸版印刷は、各自が保有するコンピュータビジョン技術とデジタルアーカイブを組み合わせ、熊本地震で崩落した熊本城の石垣の正しい位置を特定する「石垣照合システム」を開発。システムの検証実験では、目視では判別できなかった43個の石材のもとあった場所を特定することに成功した。
2016年4月14日以降に、断続的に発生した熊本地震で、熊本城は石垣が崩落するなど甚大な被害を受けた。元通りに積みなおす必要がある石材が10万個に及ぶなど、全体の約3割の石垣が修復対象となった。
こうした事態を受け、熊本大学と凸版印刷は2017年5月、「熊本城など被災文化財の復旧・復興支援に関する連携協定」を締結。3万個の崩落石材について、位置特定を自動化する「石垣照合システム」の整備に着手した。
システム開発は同大学の上瀧剛准教授が発案し、両者の保有するリソースを活用して進められた。熊本大学は、ICP(Interative Closest Points)アルゴリズムを使ったコンピュータビジョンによる照合技術を提供。凸版印刷は、被災前にVR作品「熊本城」を制作する目的で櫓(やぐら)や石垣など約4万点のデジタルアーカイブデータを取得しており、このデータをベースに、照合の精度を高めるため、各石材の形状の特徴を再現した画像データベースを作成した。
システムでは、崩落前の石材の輪郭(りんかく)などの特徴と、崩落後の石材写真の特徴を比較し、位置を推定。熊本大学は、ICPアルゴリズムで自動的にデータから位置を特定するシステムを構築した。
システムの検証では、飯田丸五階櫓の南面312個と、東面159個の計471個の石材で、照合精度をテスト。その結果、事前に熊本市が目視で特定した結果と比較して、約9割の正答率となったという。さらに、目視では分からなかった43個の石材の位置が判明した他、不適切な位置候補が示されていた17個の正確な位置も明らかになった。
熊本城総合事務所の網田龍生氏は、「凸版印刷が保有する熊本城被災前の記録データは、石垣照合をはじめ、復旧作業の多くの現場で役立っている。あらためて文化財をデジタルアーカイブすることの重要性を痛感した。システムがさらに進化し、熊本城の早期復旧につながることを期待している」とコメント。
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